diario
祭壇型額縁をつくる11 古色を付けて完成 2月27日
長々と古色についてのひとりごとを
お聞かせつづけてまいりましたが、
この祭壇型額縁で「今のところの結論」
として決着を付けようと考えております。
この額縁には、19世紀イギリスの新古典主義時代の
作品を模写した油彩画が納められる予定です。
200年弱前の作品(模写とはいえとても精巧)が
納まるべき額縁、どのような古色が相応しいだろう。
イタリア、メディチ家の額縁との違いはなんだろう。
資料を参考にし、記憶をたどりました。
200年は長い時間だけれど、額縁にとっては
それほど長くはないはずです。
おそらく、すこしの擦れとかるい打ち傷がある。
金の輝きはメディチ家の額縁のような質感とは
違うはず、しっとりとしてツヤは強くない。
汚れは濡れ色で、隅にたまっている。
全体に赤茶色の深みが足されている可能性もある。
・・・のではないか。と、わたしは考えた。
今のところのわたしが思う「古典主義時代に
イギリスで作られ手入れされ続けた額縁」
として古色加工を施します。
正解はわかりません、現時点でのわたしの
考え、好みの世界になっております。
ワックスの調合と塗り方、拭き方を変えましたが
基本的な手順はいつもとおなじです。
木槌などで打ち傷をつくり、
スチールウールで磨り出し、ワックスで汚します。
そんな訳でして、完成いたしました。
今後、さらに経験をつむことができ、
もっと沢山の額縁に触れることができたら
今日の加工とはまた考えが変わるかもしれません。
その時にもう一度、この額縁を見たいと思います。
これにて「祭壇型額縁をつくる」ご紹介
終了でございます。
ながらくお付き合いいただき、ありがとうございました。
「works」内「classical」にこちらの額縁をアップいたしました。
どうぞご覧下さい。
祭壇型額縁をつくる10 金箔仕事おわり 2月22日
さぁ、祭壇型額縁の金箔作業も
ようやく大詰め、終わりに来ました。
金箔を置き、繕いもして磨きました。
全面をくまなく見て、ううむ。
ここ、どうだろう。
箔の仕上がりが釈然としない部分があります。
なんだか薄い、というか軽すぎる感じ。
重厚なデザインで平らな面と凹凸のある面が
並んでいるような額縁では
平らな面の箔の仕上がりがより目立ちます。
ですのでもう一度、箔を置きます。
今回は下の棚部分、上部の平面部分、
そして柱の土台部分、いずれも平らな面に
金箔を2枚かさねに置きました。
遠目には分かりませんが、2重の箔は
しっとりとした厚さを感じられるのです。
金箔はたったの0.1~0.2μmの厚さですが
1枚と2枚では違いが見えるのが不思議です。
さて。
これにて箔仕事は完了です。
下の写真では分かり辛くて恐縮ですが
今回は部分的につや消しにしました。
つや消しの明るさと磨いた部分の重さの
コントラストがなかなか良い感じです。
ぎんぎんぎらぎら、金箔ひかる・・・
今はまだ生々しい金の輝きですが、
これから古色付けの作業です。
そう、いよいよ例の古色付けです。
それにしても・・・かつて
自分で見て「ここ、どうだろう」と思っても
「これくらいなら、まぁいいか」と
見ぬふりをして完成にしたこともありました。
お恥ずかしいことです。
そんな額縁の場合、十中八九で
「ん?ここ、なんだか、どうなんだろう」
と気づかれる方がいらっしゃいました。
「ん?」と思われたときの目、表情。
でもなにもおっしゃらずに無言で
じっと見続けておられる時間。
その時の自分の気持ち。
忘れないようにしています。
祭壇型額縁をつくる9 繕いマラソン 2月18日
ひとまず金箔を置き終わりましたが
これでお終いではありませぬ。
箔の破れやピンホールに箔を置く
繕い作業が待っています。
この作業もまた、完成度を左右する
大切な作業なのでございます。
よく研いだ箔ナイフを準備して
金箔をこまかく切り刻みます。
細い丸筆を2本用意し、左手には
水を塗るための筆を持ち、
右手には箔を取り上げて移動させる
筆を持ち、いざはじまりです。
左手で水を置いたら右手で箔片を置く。
この流れ作業をえんえんとおこないます。
以前、繕うときは頭の中で
「やーい、このヘタクソー!」だの
「簡単な場所を破いちゃって、もう!」
などと自分をののしりながら作業していましたが
これは悪いクセです。もうやめます。
自分を鬼の形相にしていた気がします。
今年、お正月の箱根駅伝を見ていたら
選手の後ろを伴走する車からコーチが
「いいよいいよ!その調子で行こう!」と
暖かく励ましているのに感動しました。
疲れてつらいとき、まだゴールが見えないとき
励ましの言葉は大切です。
金箔繕いもマラソンのように
もくもくとたんたんと行う作業です。
星の数ほどに思われる繕い仕事も
(もっと上手に箔を置きたい)
ふと離れて眺めてみれば、ずいぶんと
進んでいることに気づきます。
終わりのない繕いはないのですから。
「どこかで聞いたセリフだな」ですって?
ええ、確かに石膏磨きの時も同じことを
申しました・・・。ハハハ。
「いいよいいよ、その調子で行こう!」と
せめて自分だけでも自分を励ましつつ
作業をすすめます。
祭壇型額縁をつくる8 金箔を置く 2月11日
イタリア留学から帰国してすぐ、
日本の額縁制作に携わる方々をお話をしたとき
金箔を貼ることを「箔を置く」と
仰っていたのに驚いたことを思い出します。
ほかの業界でなんと言うか不勉強ですが
絵画の世界では、箔は貼ると言うような。
とにもかくにも、祭壇型額縁に「箔置き」です。
不規則な形の額縁ですが、作業開始は
いつもの通りに一番高い場所からです。
というわけで、屋根部分から置き始め。
egg&dart の彫刻部分や柱のみぞ
そして四角の連なり模様(tooth)には
箔を入れるのが面倒です。
おおきくバーンと置いてから細かく繕うか
小さな箔を形に合せてチマチマと置きすすめるか。
今回、上のegg&dart とtooth にはバーンと置き、
下のegg&dart は小さな箔を置くパターンで
ためしに作業しましたが、好みもあるでしょうけれど
egg&dart には小さな箔をチマチマと
tooth にはバーンと置いて程よく繕う、が良さそう。
ここでもやはり赤ボーロと黄ボーロの
塗り分けが効いてくるのです。
こまかい凹凸に箔を入れるには
水の塗り方にコツがあります。
下の写真、まず手前とみぞの中央まで
ひたひたに水を置きます。
みぞ内の向こう側面には塗りません。
そして箔を置きます。
すると水に引っ張られるようにして
箔がするするとみぞの中にすべり入ります。
みぞの向こう側の棚部分に水を流し込んだら
これで完了です。
この方法ですと、いま置いた部分の水が
ひいて乾いてからでないと
隣のみぞの作業はできません。
なかなか面倒な作業ですし
この方法がお勧めという訳でもありません。
いろいろ試して自分に合う方法を
見付けるのが良いようです。
急がば回れ、でございましょう。
祭壇型額縁をつくる7 ボーロを塗る 2月07日
ようやく磨き終えた石膏地に
ボーロ(箔下とのこ)を塗ります。
ボーロはとても大切な下地剤です。
これが塗ってあるからこそ箔を水で置ける(貼れる)
そしてメノウで磨けるのですから
古典技法では欠かせません。
魚ニカワ1枚を前日の夜に250㏄の水に入れておき
ふやかしたものを翌朝に湯煎でとかします。
この魚ニカワでボーロを溶きます。
さて、まず彫刻、つまり凹凸のある部分に
黄色ボーロを塗りましょう。
そして彫刻の凸部分とその他の平らな部分にのみ
赤ボーロを塗ります。
ボーロ層が厚いと金をメノウで磨いた後の
輝きが増しますがコッテリした仕上がりに、
薄いと箔が着きにくいけれどスッキリした
仕上がりになります。
今回は厚めと薄めと塗り分けています。
濡れ色が消えて乾くまで待ちます。
なぜ凹部分には黄色ボーロしか塗らないのか?
金箔が貼りにくい凹に金箔と近い色を塗っておけば
金箔を貼りきれなくても目立ちづらい・・・
との理由で、伝統的にこんな風になっています。
そうは言ってもわたしは、金箔の貼り残しは
できる限り繕って仕上げるつもりです。
乾かす間にランチにしましょう。
1時間後、すっかり乾いたら金箔を置きます。
気持ち新たに大仕事に取りかかりますぞ!
祭壇型額縁をつくる6 ボローニャ石膏みがき 1月17日
ボローニャ石膏を塗り終え
しっかり乾燥させたら、次の作業
石膏を紙やすりで磨きます。
これはもう、ひたすらがんばるしかありません。
コツと言えるほどではありませんけれど、
あらゆる方向から確認して
磨き残しを作らないこと、
そのためにランプで斜めの光を当ててみること、
紙やすりは使いやすい物を準備して
ケチらず使うこと。
スクレーパーや金ヤスリ、当て木など
臨機応変に使い分けること。
マスクと髪をおおう物、場合によっては
ゴム手袋なども使って身体を守ること。
石膏磨きは古典技法額縁制作で
いちばんハードな作業ですけれども
おろそかにすると必ず後悔します。
「終わりが無い石膏磨きは無い。」
「続ければ終わりは来る。」
と思ってがんばる。
それに尽きます。
祭壇型額縁をつくる5 ボローニャ石膏塗り 12月27日
すこし間があきましたが、祭壇型額縁です。
下ニカワを塗り麻布を貼り込んだ木地に
今日は石膏を塗ります。
まずは石膏液つくりから開始しましょう。
前日の夜にふやかしておいた兎ニカワ
(ニカワ1:水10、いつも通り)を
湯煎で温めたらボローニャ石膏を入れます。
今回は300mLのニカワ液ですので
完成する石膏液は500mLほどでしょうか。
まだもう少し、水面ギリギリまでいれます。
石膏がニカワ液に沈んだら、しずかに漉して
石膏液は完成です。
麻布部分の石膏を塗るとき、
布目にしっかり石膏液が入っていないと
気泡の原因になります。
筆で塗るだけでなく、指で塗り込みますと
よりしっかり入っていきます。
石膏液はこまめに温め、蒸発した水分を足しながら
温度と濃度を管理します。
薄めに3層~4層塗り、今日はここまで。
渦巻き側面など麻布がまだ見えています。
いったん乾かして、麻布や彫刻部分の凹凸を
紙やすりを使って整えてからあと少し
2~3層の石膏を塗る予定です。
祭壇型額縁を作る4 麻布貼りと下ニカワ塗り 12月03日
彫刻作業を終え、完成した装飾竿の
egg&dart も本体に取り付けました。
今日はボローニャ石膏を塗る
準備をいたします。
木地に「下ニカワ」といって目止めの
兎ニカワを塗りますが
今回は並行して亀裂防止の麻布も貼ります。
この祭壇型額縁の木地は、横から見ると
何層も木材を重ねて土台、柱、装飾を作ってあります。
このまま石膏を塗るとおそらく
木材の境目に亀裂が入ることでしょう。
それを少しでも少なくするために
石膏の前に粗い麻布を兎ニカワで貼ります。
木材が湿度で動いても、石膏に出る影響が
最小限になるように。
たった一枚の麻布、でも威力は絶大です。
この麻布ですが、織り目に沿って
切ることが大切です。
貼り込むときも、できるだけ目を整えて。
「なんたる面倒!」ではありますが
そうすることによって麻布の力は
最大限に発揮されるのだそうです。
今回のような下地につかう麻布も
絵画修復で補強に足す麻布も
かならず織り目に沿って切る。
先人の教えに忠実に行きます。
祭壇型額縁を作る3 渦巻きを彫る 11月19日
今日からいよいよ本体を手がけます。
イオニア風の柱、上部の渦巻きを彫りましょう。
トレーシングペーパーで作った下描きを
カーボン紙で写します。いつも通りです。
彫り彫り。
となりにモデルの写真を置いて確認します。
もう少し垂直方向に深いですね。
さらに彫りすすめます。
さてと。
左右がおおよそ彫れてきたところで
同じ深さ、バランスになっているか確認します。
egg&dart も仮留めして見てみます。
ふむ。
もう少し細かい調整が必要ですが、
ひとまず木地はかたちになりました。
わたしは木彫を留学時に学びましたので
今も留学当時に買った彫刻刀を使っておりまして、
21本のpfeil社製彫刻刀と
日本の彫刻刀3本でやりくりしています。
でもこれは決して多くない本数です。
道具があれば良いという訳ではないけれど
もっと様々なカーブの彫刻刀があれば!
と思うこともしばしばです。
今後すこしずつ買い足していきたいと思っています。
祭壇型額縁を作る2 egg&dart 彫刻 11月08日
下描きをした半カマボコ形の竿を
egg&dart のデザインで彫りましょう。
私が使っている彫刻刀はスイスのpfeil社のものです。
ステンレスの長い刃に木製の柄で、鑿(のみ)
のように木槌で打つことができます。
デザインのカーブに合った刀で溝を打ち、
そして彫り進めていきます。
頭の中に、正面や斜め、真横など様々な角度の
3Dで完成したイメージをインプットしておき、
それに近づけて削ぎ取っていく、という感じです。
上下と両脇、あわせて6面分の egg&dart
彫り終えてペーパーをかけました。
全く縁遠いような話ですけれど、
木彫が好きな人は車の運転が好きなのではないかな、
首都高の合流や車線変更も苦にならない
と感じる人が多いのではないかなぁ・・・。
わたしが木彫好きのドライブ好きだからって
こじつけている訳ではないのですけれど、
なんとなく、そう思っています。
祭壇型額縁を作る1 egg&dart 下描き 10月25日
今回の祭壇型額縁は、上部と下部の2か所に
帯状に彫刻装飾が入ります。
まずはこの彫刻から作業開始です。
デザインは egg&dart という古典的なもの。
まるい卵と尖った矢が交互に並ぶデザインです。
「CARVING ARCHITECTURAL DETAIL IN WOOD」より
いにしえのギリシャ神殿にも使われているような
いわばオーソドックスなデザインですが
それだけにバリエーションも沢山あります。
今回の egg&dart は2cm幅の半カマボコ形の竿に
入れますので比較的小さくシンプルです。
竿に下描きをしますが、この方法はそれぞれ。
コンパスで目安を手早く入れるだけの人もいれば、
金属板で型をつくる方法も本に紹介されています。
「CARVING ARCHITECTURAL DETAIL IN WOOD」より
わたしはというと、定規で目安を入れたあと
トレーシングペーパーで下描きをつくって
カーボン紙で転写する、という
面倒かつ無駄の多い(と思われる)方法です。
結局のところ、慣れて好きな方法が安心。
・・・というだけのことなのです。
なにはともあれ次、彫刻刀で彫ります。
祭壇型額縁を作る プロローグ 10月11日
額縁のながい歴史の中で、祭壇型の額縁は
比較的はじめの頃に登場した形ですが、
その特徴的なスタイルと雰囲気から
現在でも欲しいと思われる方がいらっしゃいます。
でも、日本で制作する工房はあまりないようです。
その理由はさまざま推測しますが、ひとつに
木地作りのむずかしさがあるように思っています。
そんな祭壇型額縁をKANESEIで制作しています。
電卓片手に四苦八苦、ようやく設計図をおこし、
そして注文して作って頂いた木地がいよいよ届きました。
木地は茨城にある千洲額縁さんにお願いしました。
ミリ単位の調整、細かいお願いを誠実に
聞いて下さるとても頼りになる工房です。
千洲額縁さんのブログに、おととしお願いした祭壇型額縁の
木地製作の様子(今回の木地ではありません)が
すこし紹介されていますので、ぜひご覧ください。
お客様からのご注文は、下の写真の額縁を再現すること。
この額縁は、ニューヨークにある有名な工房で
作られたものであろう、とのお話です。
(絵画作品は隠しました。お見苦しくてすみません。)
この祭壇型額縁制作は千洲額縁さんの木地が50%
続くKANESEIでの彫刻と装飾が50%という感じで
わたし一人では到底作ることができないもの。
木地完成の時点で半分完成したも同然・・・
の感がありますけれども、
今回のKANESEIでの作業過程をすこしずつ
このdiarioでご紹介しようと思っています。
ご興味を持ってくださる方がいらっしゃると
嬉しいのですが。
それでは、始まり始まり。
どうぞ気長におつきあいくださいませ。