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旅の記憶と小箱の物語 9月16日

 

これは、モロッコ・タンジェのスークと

イスタンブールのバザールを歩いた時の記憶を

思い出しながら作った物語です。

。。。。。。。。。。。。。

 

香辛料とコーヒーと人々の体臭と

ありとあらゆる匂いが積み重なったバザールで、

私は出口を見失っていた。

 

道を尋ねようと思ったその店は薄暗い路地にあった。

入口横には安そうな土産物が並んでいる。

私はただ道を尋ねるのも悪いと思い

商品を選ぶふりをして店に入った。

 

狭い間口とは裏腹に案外奥は深く

いくつかの小部屋が続いている。

4つ目の部屋に差し掛かった時

ふと目に留まった小箱があり、手に取った。

 

五十がらみの退屈そうな店主がいつの間にか

音もなく私の後ろに立っていて驚いた。

「これは俺の爺さんが集めた骨董の残りだ。

爺さんは骨董商をしていたけれど俺が生まれる前に死んだ。

だから、今残っているのはこの棚にあるだけだ。」という。

 

聞けば彼の父親は骨董に興味が無く

祖父の死後ほどなく土産物店にした。

だが奇特な外国人観光客がたまに買っていくから

そのまま並べているそうだ。

 

「この箱がいつのものか?さぁてね

爺さんがどこで買い付けていたのか知らないから、もう分からない。」

「何に使われていたか・・・?それを知ってどうするんだ?

箱は箱さ。持ち主が好きなものを入れるためにあるのさ。」

 

道を聞くために入った店で、古びた小箱をひとつ買って出た。

新聞紙で包まれたその小箱を握って

ぼんやりと使い道を考えながらしばらく歩いたが、

ふとバザールの出口を聞くのを忘れたことに気付いた。

 

その店があった場所はすでにいくつかの路地の向こうで、

もう戻る道は分からなかった。

。。。。。。。。。。。。。

 

 

なんちゃって・・・そんな旅の思い出に

誰かが持っていそうな小箱、のイメージ。

彼が買った小箱が本当に骨董品だったのか

似せて作られた物だったのか

わたしにも分かりません。

 

さて、わたしが作った新しい小箱ですが

模様は西洋の本にあったものなのですが

完成してみたらいつの間にか

いずことも知れぬ雰囲気になっていました。

 

 

124×58×20mm

 

 

あっちとこっちと、感覚は違う 9月12日

 

小箱に装飾をしながら小さな額縁も作る。

どちらも木地にボローニャ石膏を塗って磨いて

ボーロを塗って箔を貼って磨いて・・・と、

材料も手順も同じだけれど、なにやら向き合う気持ちは違うのです。

 

箱は5面(4側面と上面)に対して

額縁は1面もしくは彫刻で3Dだから?

いや違うな、額縁も5面ですな・・・

やはり大きな違いは塊りか枠か、ですかね・・・。

 

ともあれ、箱に疲れたら額縁に行き

額縁に行き詰まったら箱に行き・・・そんなことをしています。

 

 

この額縁も箱に石膏を塗るタイミングにあわせて木地を作って

まとめて石膏を塗っておいたもの。

いつも頭の片隅にあって、どんなデザインにしようかな・・・

と呑気に考えていました。

そしてこれまた箱にパスティリア(石膏盛上げ)をするタイミングで

この額縁にもパスティリアでポチポチを並べました。

 

 

何の変哲もないデザインなのですけれど

角をカットしたことで少し柔らかさが出たかな、と思います。

ポチポチのサイズや間隔でも実は結構な変化が出るのです。

ポチとポチの間が詰まるほどクラシカルな印象になったり

ポチのサイズが大きくなると迫力は増すけれどバランスは難しくなる、とか。

ああでもないこうでもない・・・と

下描きで試しながら考える時間はとても楽しくて

完成した額縁を眺めてひとりでニヤニヤしています。

 

 

今年も12月に箱義桐箱店 谷中店で

小箱の個展をさせていただく予定です。

その際にこの額縁を含めたハガキサイズの額縁を

数点ご覧いただけたらと思っております。

 

 

写真と額縁と 9月09日

 

先週9月6日から、中野にあります写真専門の画廊

「ギャラリー冬青」にて開催の展覧会に

KANESEI の額縁を使って頂いております。

匿名の写真家 H.J 氏によるフィルム写真作品です。

 

▲70年代に撮影された作品。被写体は当時の恋人、現在の奥様。

 

額縁は全部で11点使って頂いておりますが

(その内の2点は同時開催の名古屋での展示に使用)

どの額縁もしばらく前に作ったものです。

 

 

上の額縁は本銀箔の艶消し仕上げ。

写真の空の青、車の輝きとコンクリートの乾いた感じと

とても良く合っています。

 

 

今回の額装はすべてコーディネートされた

渡部さとるさんとギャラリーの方によるものです。

わたしのアトリエにお越しくださり額縁を選び、

写真とのマッチングをしてくださいました。

 

▲とてもクラシカルな額縁だけど、服のチェック模様や

木漏れ日の影に不思議と合っている。

 

 

こうして作品を納めた額縁の姿をギャラリーで見たとき

自分の手元にあった時の記憶が薄れて

知らない額縁を見たような気持ちになりました。

晴れがましいような寂しいような、不思議な気持ちです。

 

▲内側の側面にアワビ貝を貼った額縁は

輝く車体とつながるイメージ。

 

美しく詩的で力強さもあって、青春とノスタルジーと切なさと苦しさと

色々と混ざった感情が沸き上がる写真作品に、

わたしの額縁を使っていただく事が出来たのは幸せなことです。

 

▲この額縁は他社製。これもスッキリとして美しい額縁です。

 

わたしの青春の地であるフィレンツェの

サンタ・トリニタ橋の風景があったことも

わたしの気持ちを揺さぶった理由の一つでした。

 

H.J氏による写真展「melody」は、ギャラリー冬青にて9月26日まで。

もうひとつ名古屋で同時開催のH.J氏写真展「eyes」は

 PHOTO GALLERY FLOW NAGOYA です。

もしご興味をお持ちいただけましたら、ぜひお出かけください。

 

 

編み物シリーズ 9月05日

 

勝手に命名「編み物シリーズ」として作っている

竹編み風デザインの小箱です。

数年前にひとつ作って、あまりに気に入ったので

展示会初日に友人に押し売りしたのですが

その後ふたつ作ったけれどあまり人気はない様子・・・

 

でもでも!きっと好んで下さるかたもいらっしゃるに違いない、と

思い込んで(思い込みは制作にある程度必要!)

新たにふたつ作りました。

 

水箔(14カラットの金箔)で仕上げたもの

 

▲三本立ての四ツ目編み風。

 

▲パカッ 中は濃い青にしました。

 

それから太くふっくらとした四ツ目編み風。

こちらは22カラット金箔。

 

▲行李っぽい雰囲気。

 

▲パカリンコ・・・内側は濃いベージュとモスグリーンです。

 

編み物シリーズ、数年前に

六つ目編み風のデザインも作り、手元にあります。

3つ並べてみたら、あらカワイイ~と親バカを発揮しております。

 

 

いかがでしょうか。

 

今年11月には神楽坂、12月には京都でのグループ展

そして谷中の箱義桐箱店谷中店での個展を予定しております。

そのうちのどこかでご覧いただきたいと張り切っております。

 

 

箔の上にもできますよ、の種明かし 9月02日

 

先日Instagramに、金箔2種類の貼り分けを載せたところ

思いがけず沢山の方にご興味を持って頂けたようでしたので

こちらブログでもご覧いただけたらと思います。

 

ヨーロッパ古典技法の箔の技法に「ミッショーネ」と言って

箔用の接着剤で貼る方法があります。

一般的にはテンペラ絵の具などで彩色した面の上に

例えば衣装の模様や天使の後輪などを入れる技法です。

今回は箔の上に箔を貼ってみます。

 

まずベースにはいつもの水押し技法(ボローニャ石膏地にボーロを塗り

箔を水で貼ってからメノウ磨き)で貼り磨いてから

その上にミッショーネ液(箔用の糊)で模様を描きます。

そして糊が半乾きの頃にもう1種類の箔を乗せます。

 

▲今回は4号箔(22カラット金箔)を水押しし

その上に水箔(14カラット金箔)を乗せます。

奥にある白い液体瓶がミッショーネ液。水性です。

 

そして、しばらくしてから筆で優しく掃うと

糊を置いた部分に模様が残る、という流れです。

 

▲これが一番楽しい瞬間

 

わたしは石膏地に模様を線彫りしてからベースの箔を貼り磨きます。

そうすると次の作業のミッショーネ液塗りが楽ですし、

わずかな凹凸でも立体感が出ますので。

 

▲こんな感じになります。ミッショーネ部分は磨けないので艶消し。

 

言ってみれば、いつものミッショーネ技法と同じなのですが

箔の上にも出来るよ、という事なのでした。

知り合いの古典技法作家の方が「水押しで貼り分けているのかと思った!

どうやっているのかと思った~」とおっしゃっていましたので

種明かし。でした。