diario
2人きりで夢の時間を 5月23日
唐突に登場するフィレンツェ滞在のお話です。
フィレンツェ歴史地区にある
アンドレア・デル・カスターニョ(1421~1457)の
「最後の晩餐」フレスコ画は、無料で見られるのが不思議なほど
(有難い限り)素晴らしい作品です。
サンタポッローニャ(サンタ・アポッローニャ)修道院の
食堂だけが残っていて、平日午前中に公開されています。
ここは彫刻師匠グスターヴォの工房から中心街への通り道なので
工房に行った日は必ず立ち寄るのです。
とても広い食堂には今はもう何もなくて、そうして大抵だれもいない。
▲ライオンも厳かに絵を見上げる
足音が響き渡るほど静かな場所で、誰もいない空間を独り占め。
カスターニョの作品と二人きりで過ごすのは大変に贅沢な時間です。
ここはカスターニョの美術館となっていて
最後の晩餐がメイン作品ではありますが
わたしはこちらのピエタが好きです。
タイトルは「Cristo in pieta tra angeli」、直訳すると
「亡くなったイエス様と天使」と言ったところですけれど
復活したイエス様が棺から出るのを天使が手伝っている図
と勝手に解釈しております。
(全く違うかもしれません。あくまでわたしの勝手な想像です。)
3日間を石の棺で横になって過ごしたイエス様、
手足には穴が開いて、胸には槍で刺された傷もあって
立ち上がるのも一苦労な様子です。
ようやく体を起こしたイエス様を天使がかいがいしく支えています。
ううう・・・と唸るイエス様の隣で
右天使「はい、大丈夫ですよ~、ゆっくりゆっくり~」
左天使「足上げて~、さぁ出ましょうね~」
なんて言っているんじゃなかろうか。違うかな。
▲下描きも残っている。迷いのない線の上手さ素晴らしさ!
そして、「最後の晩餐」の左上には無事復活して
旗を持って天に戻るイエス様の姿が描かれています。
あの細長い窓を開けたら何が見えるのかな、と想像したりして。
これらの絵を描いた時、カスターニョはたったの26歳だったそうです。
その10年後、36歳でペストに感染して亡くなってしまった。
無念だっただろうな、家族や恋人はいたのかな、
描きかけの絵はどんな作品だったのだろう、
もっと長く生きたらどんな作品を描いたかな、
彫刻はしたのかな・・・
まさにこの場所で、若きカスターニョが立って絵を描いていた。
そしてきっと、お弁当も食べただろうし
日々喜んだり怒ったり不安になる時もあったかもしれない。
600年前の、まさに、ここで!
この場所は想像が膨らみすぎて(なにせ誰もいないので)
頭がパンパンになってしまいます。
そうしてボォォッと過ごしてから大通りへの扉を開けると
大学生が闊歩していて、バスやバイクが走っている現実にもどる。
カスターニョと夢の時間を過ごせる場所です。