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幸せな娘時代を思い出すマダム風 5月30日

 

現在、ご注文を頂いて作っている額縁は楕円形です。

白木(無塗装)の額縁木地を日本で調達する場合、

木工所に頼むか、木地メーカーから購入するか

既成の木地を買う。おおむねその3パターンです。

そして日本で楕円形の木地を手に入れるのは困難なのです。

需要が少ない上にサイズ調整もできないし

板を刳り貫くので材料費もかかる・・・

入手困難もやむを得ないことでございます。

 

今回の木地は、ご注文下さったお客様ご自身が購入されて

KANESEIに持ち込んで下さったものです。

イタリア製だとか。いいなぁ、楕円・・・

 

さてさて、デザインはすぐに決まりました。

パスティリア(石膏盛上げ)で模様と文字

「CHAOS」「ORDER」を入れることになりました。

木地に石膏を塗り磨きまして、わたしの好きな技法

パスティリアで左右に模様。

そして上に CHAOS 上に ORDER とゴシック体で入れます。

文字アウトラインに線刻を入れて

 

▲額縁サイズはB5の縦長な感じ

 

純金箔の水押し。古典技法真っ只中を進みます。

 

▲ボーロは赤。やはり赤が一番美しく仕上がると感じます。

 

今回、楕円形の額縁の箔作業は初めてでした。

ずいぶん昔に作った楕円額縁は木地仕上げでしたので・・・。

箔作業は、貼り始めの場所を記憶しておくことが必要

(次の作業の開始場所でもあるので)ですが、

四角など角が無い形、始まりと終わりが無い

繋がった形ですので不思議な感覚でした。

楕円(正円)の額縁制作の注意点を知る。

途中、どこから始めたか分からなくなってしまって気づきました・・・。

 

▲机の上の散らかり様は見て見ぬふりでご容赦ください・・・

 

箔を貼り磨き、部分的に黒で彩色して、

文字の中をマイクロ点々打ちをして、さて。

楽しい楽しい古色付けです。

キラキラ輝く金箔をスチールウールで擦って傷をつけ

ワックスで汚して、ボロボロ加工をしてアンティーク調にします。

輝く金と艶やかな真っ黒な色が

この加工でしっとりと落ち着いてきます。

 

勝手なイメージですけれど、古色加工前の額縁は

「露出度高めの黒いドレスを着た若い女の子が

瞳をキラキラさせて楽しくパーティーへ向かう!」

という雰囲気だったのが、古色加工をすると

「50年後、その女の子は沢山の人に愛されて沢山の経験をして

奥底から湧き上がるような美しさを湛えるようになった。

そうして幸せな娘時代を思い出して微笑んでいる」

というような変化。

 

そんな感じになったら良いなぁフフフ・・・

と思いつつ、今日も嬉々としてガサゴソ作っています。

 

初夏の乾いたイメージ 5月27日

 

小箱を展示した際など、お客様の様子を拝見していますと

意外な色味の小箱を選んてくださる方がいらっしゃいます。

散々こちらでお話しています通り、わたしは

黒と金の小箱ばかり作ってしまうのですが、

当然ながら明るい色や茶色がお好みの方も沢山いらっしゃるのです。

 

ええと、つまり、明るめの色の小箱を作ってみました・・・

と言うことでございます。

 

 

白地に金泥と銀泥で模様をいれました。

 

 

純金箔で帯を入れて、下部は濃い緑色です。

 

 

内側はペールグレー、布は純白で爽やかに。

初夏のような陽気の日に色を選んだら

こんな組み合わせになりましたけれど、

なんだか平安時代の着物の重ねのような・・・

いや、ちょっとおこがましいですかな。

 

 

パリッとした小箱(当社比)、いかがでしょうか。

 

 

2人きりで夢の時間を 5月23日

 

唐突に登場するフィレンツェ滞在のお話です。

 

フィレンツェ歴史地区にある

アンドレア・デル・カスターニョ(1421~1457)の

「最後の晩餐」フレスコ画は、無料で見られるのが不思議なほど

(有難い限り)素晴らしい作品です。

サンタポッローニャ(サンタ・アポッローニャ)修道院の

食堂だけが残っていて、平日午前中に公開されています。

ここは彫刻師匠グスターヴォの工房から中心街への通り道なので

工房に行った日は必ず立ち寄るのです。

 

 

とても広い食堂には今はもう何もなくて、そうして大抵だれもいない。

 

▲ライオンも厳かに絵を見上げる

 

足音が響き渡るほど静かな場所で、誰もいない空間を独り占め。

カスターニョの作品と二人きりで過ごすのは大変に贅沢な時間です。

ここはカスターニョの美術館となっていて

最後の晩餐がメイン作品ではありますが

わたしはこちらのピエタが好きです。

 

 

タイトルは「Cristo in pieta tra angeli」、直訳すると

「亡くなったイエス様と天使」と言ったところですけれど

復活したイエス様が棺から出るのを天使が手伝っている図

と勝手に解釈しております。

(全く違うかもしれません。あくまでわたしの勝手な想像です。)

 

3日間を石の棺で横になって過ごしたイエス様、

手足には穴が開いて、胸には槍で刺された傷もあって

立ち上がるのも一苦労な様子です。

ようやく体を起こしたイエス様を天使がかいがいしく支えています。

ううう・・・と唸るイエス様の隣で

右天使「はい、大丈夫ですよ~、ゆっくりゆっくり~」

左天使「足上げて~、さぁ出ましょうね~」

なんて言っているんじゃなかろうか。違うかな。

 

▲下描きも残っている。迷いのない線の上手さ素晴らしさ!

 

 

そして、「最後の晩餐」の左上には無事復活して

旗を持って天に戻るイエス様の姿が描かれています。

あの細長い窓を開けたら何が見えるのかな、と想像したりして。

 

これらの絵を描いた時、カスターニョはたったの26歳だったそうです。

その10年後、36歳でペストに感染して亡くなってしまった。

無念だっただろうな、家族や恋人はいたのかな、

描きかけの絵はどんな作品だったのだろう、

もっと長く生きたらどんな作品を描いたかな、

彫刻はしたのかな・・・

 

まさにこの場所で、若きカスターニョが立って絵を描いていた。

そしてきっと、お弁当も食べただろうし

日々喜んだり怒ったり不安になる時もあったかもしれない。

600年前の、まさに、ここで!

 

この場所は想像が膨らみすぎて(なにせ誰もいないので)

頭がパンパンになってしまいます。

そうしてボォォッと過ごしてから大通りへの扉を開けると

大学生が闊歩していて、バスやバイクが走っている現実にもどる。

 

カスターニョと夢の時間を過ごせる場所です。

 

 

やりすぎちゃった? 5月20日

 

黒い小箱ばかり作っているとまた家族に笑われそうなので

(良いんですけどね、別に!開き直っております。)

ちょいと色味のあるものを作るべし・・・と

ダマスク模様をブルーグレーの濃淡で入れてみることにしました。

 

 

パスティリア(石膏盛上げ)で

箱縁にポチポチを入れて純金を貼り磨き

そしてベースに明るい青、模様をブルーグレーで入れています。

 

 

模様入れた。できた。金もキラキラ。

・・・でも、なんだか、こう・・・

既視感が漂いすぎるような。ありがち。

 

じゃぁ!ということで、ひび割れ加工をしまして

濃い色に調整したワックスを塗りたくりまして

 

▲ワックスコッテコテ

 

磨き上げて完成としました。

 

▲ピンぼけ失礼いたします・・・

 

 

鮮やかだった青が、ほとんどグレーになりました。

 

 

ひび割れ加工の割れ目にワックスが入って、古色感満載です。

・・・ちょっとコッテリやりすぎちゃった?

色のある小箱のつもりが、またもや暗路線・・・?

いや、でも良いのですこれで。

 

なんだかほら、ヴェネツィアの裏路地にある薄暗い骨董店で

埃を被っていそうな雰囲気になりましたでしょう?

「これはね、さるお屋敷から出たイワク付きの小箱でね、

特別なお客にしか見せていないんだ。だから秘密だよ・・・」

なんて、眼光鋭い店主が話し出しそうでしょう?

・・・ね?!(「うん」と言って下さい。)

 

このひび割れ加工小箱、ちょっと楽しくなってきました。

またやってみます。

 

 

販売禁止の理由が気になる 5月16日

 

思い出した時に登場、フィレンツェ滞在記です。

 

イタリアに行く度に必ず買うもの、それは薬です・・・。

怪しい。でも日本の薬とは違う良さ(変な表現ですが)があります。

それはとにかく「早く良く効く」です。

 

薬に対する考え方は人それぞれで、

できるだけ薬は飲まずに過ごしたいという方もいらっしゃれば

わたしのように「薬があるなら我慢せずにさっさと飲んでしまう」

と言う方もいらっしゃるでしょう。(もちろん容量用法を守った上で)

 

今回のフィレンツェ滞在ではいつもの

咳止めトローチ「Benactiv」と、もうひとつ買いました。

メラトニン1mg の錠剤です。

Benactiv は薬局で買いましたので薬の扱いだと思いますが

こちらメラトニンはエルボリステリア(直訳すると薬草店)

で買いましたので、サプリメント扱いかもしれません。

 

▲左がBenactiv 右がメラトニン

 

メラトニンは寝つきが悪い時などに効きます。

日本のドラッグストアで販売されている睡眠サポートサプリとは違うものです。

メラトニン剤は日本では販売禁止だそうで

(理由は詳しく知りませんが)もしかしたら

悪影響もあるかもしれません。自己責任ということで。

ちなみに持ち帰る際に申請手続きなど必要なく

特に何も問題ありませんでした。

 

▲Benactiv は16錠(2シート)入り、メラトニンはこのシートが3枚入り

 

ええと、とにかくですね、

このメラトニン錠剤、時差ボケに大活躍なのです。

わたしは眠りたい時間の30分前に1回3~4錠飲みますが

途中で目が覚めることなく6~7時間眠れます。

体調によっては寝覚めが少々重い時もあります。

イタリアと日本の時差は7~8時間あって

これは中々キツイものがありますので、

とにかく早く現地時間に慣れる(戻る)には

メラトニン錠剤が大いに助けてくれます。

旅行や出張の際にも初日・二日目はなかなか寝付けず

悶々とするのですが、その心配もだいぶ減ります。

 

日本でも解禁したら良いのだけど・・・

禁止されている問題は何か、気になるところです。

海外のサプリメント等を販売するオンラインショップでは

普通に販売されているようですが

どういう仕組みなのでしょうね。

 

なんだかメラトニンお勧め!な感じになっておりますが

ひとつの経験談として。

もし時差や寝つきに心配がある方

機会があればお試しになってみるのも

ひとつの手かもしれませんよ・・・程度に

お読みいただけたら幸いです。

 

 

暗かろうともわたしは 5月13日

 

完成した小箱をまとめてイソイソと並べていましたら

それを見た家族が

「うわぁ~暗ぁぁい~・・・」とのたまう。

 

 

黒がベースだけど金が入っているし、そんなに暗くないでしょ?

ほら、中は黒じゃないし暗くないよ!と開けて見せましたら

 

 

えー、やっぱり暗いぃぃ・・・とのたまう。

 

いいよいいよ、暗くて結構

わたしゃ人間性が暗いんで作るものも暗いんじゃ!と

灰色の整理用箱に片付けましたら

「暗い箱の中に暗い小箱がいっぱいぃぃ~!

アハハハハ!」と笑う家族。

 

 

ほっといてくれ!と叫びつつも改めて眺めれば

うむ、暗いっちゃ暗い。確かに暗いかもしれん。

 

わたしは額縁も小箱も、無意識に作ると黒と金になります。

これはやっぱり、ヨーロッパの額縁からの影響が大きいでしょう。

金の隣に来る色は黒が一番美しいと思うのです。

古色加工をすると、さらにその美しさが際立つ。

 

暗かろうが何だろうが、黒と金が好きなんじゃ~!

もうしばらく我が道を突き進みます。

 

 

写真の古典技法 5月09日

 

某日、友人の篠田英美さんの写真展レセプションに伺いました。

 

彼女はいろいろな国で成長し

今も海外と強い繋がりを持っている人で、

撮る写真もまた外国なのに日本のよう

また日本の風景なのに外国っぽい・・・

英美さんの世界はとても広く居心地が良いのです。

 

今回の写真展に、わたしが作った額縁2枚も

参加させてくださいました。

2015年に銀座のギャラリー林で

わたしたち2人の額縁と写真の二人展を開催しまして

その時の作品2点です。

 

ギャラリーの方とのお話しで

写真にも古典技法があると言いうことを知りました。

今やデジタルがメインになった写真の世界。

フィルムで撮影し現像、プリントして完成する写真は

もはや古典技法なのだとか。

デジタルとフィルムによる「古典技法」と

作品にはどちらも特徴があって

好みの世界としか言いようがありません。

 

 

古典技法で古色を付けた額縁に、古典技法で撮影・現像した写真。

 

 

懐古主義ではない(つもり)ですし

奇をてらってわざわざ、という訳ではありません。

古典技法と呼ばれるものに惹かれるのは

結局は雰囲気や肌触り、質感の好みとしか言えないのだけれど。

 

 

篠田英美さんの展覧会「銀河は高く歌う」は

中野のギャラリー冬青で5月25日まで開催です。

ぜひお越しください。

 

ギャラリー冬青

 

 

庭の攻防 5月06日

 

我が家は東京都23区内とは言え

(よく言えば)自然豊かな場所にありまして

ささやかな庭があります。

父がお仏壇から下げたご飯を鳥用の餌台に入れて

食べに来る様子を家族で楽しんでいます。

来るのは主にスズメとヒヨドリ。

 

▲ヒヨドリはいつもひとり。

ひよどりひとり。韻を踏む。

 

▲スズメはふたりで来る。

 

餌台、変な形と思われるでしょう・・・

この形に至るまで色々とありました。

この台は父の労作でして、数年前に完成した時は

額縁の付いた美しいお盆状のでした。

今はこの状況・・・

白い小さな器はお豆腐が入っていたケースを下げています。

小さい!そして下部の青い三角はネズミ返し・・・。

昔、社会科の授業で弥生時代の高床式住居を習いましたでしょう

その時に覚えたのが「ネズミ返し」、アレです。

柱を上ってきてもこの「返し」でそれ以上登れない仕掛けです。

美しい広い台だと植木からネズミが飛び移ってくる。

ネズミ返しがないと柱をネズミが駆け上ってくる。

 

なぜ小鳥は良くてネズミはだめなの?!同じ生き物でしょうに!

実際、庭を駆け回る(そうです、居ます・・・)

小さな野ネズミはとても可愛らしいのです。

ベアトリクス・ポターの絵本そのままの姿です。

でもねぇ、家に入ってくるのが、そして子孫繁栄しちゃうのが問題でねぇ。

 

そんな訳で、我が家の庭には小さな攻防戦が繰り広げられております。

今のところ餌台は父の勝ち、となっております。

 

 

必要か必要ではないのか、それが問題だ 5月02日

 

わたしの制作に純金箔は欠かせません。

必要なのですから買います。

ええ、買いますとも、必要ですからね。

たとえ懐が痛もうとも。

 

▲主に4号箔を使っています。

 

金は時価ですからいくつかの金箔メーカーの価格を比較して

その時々で選んでおります。

 

それにしても、た、たか・・・

 

いや、これ以上は言いますまい。

タイムマシンがあったら大学時代に戻って

金箔を大量購入したいと思います。

当時に比べたら4倍近いお値段なのですもの・・・嗚呼。

 

額縁も小箱も生活必需品ではありません。

命にかかわる事でも無し。

わかっちゃいるけど。

金箔の価格で嘆くなんてねぇ・・・。

世界を見回せば、わたしの周りの狭い世界の

なんと穏やかなことよ・・・。