diario
絵画修復に向き合う 8月23日
絵画修復というのは、じつに
地道な作業の連続であります。
Tokyo Conservation のスタッフとして
油彩画修復もしておりますが
大きな作品になると
キャンバスの裏面のアイロンがけで
一日が終わる、なんてこともあります。
裏面からアイロンで亀裂を緩やかに伸ばします。
裏面の裏面、つまり表側には「絵がある」を
つねに意識しつつ慎重に作業を進めるのです。
下ごしらえも必要で、これは修復に
限らずいろいろな仕事に言えることですけれど、
下ごしらえの良し悪しで仕上がりが左右されます。
▲ストリップライニングと呼ばれる、キャンバスの
耳を補強するテープを作っています。
これも大切な下ごしらえのひとつ。
修復作業をするには安定した心身
——イライラせず飽きずに淡々と―—が
大切ですので、修復を仕事とする人たちは
精神状態の波をゆるやかにする術を持つ
朗らかな人が多いように思います。
(なかには八つ当たりしたり不機嫌を表す修復家も
いるのでしょうけれど。人間だもの。)
わたしはそんな穏やかで楽しい人たちに囲まれて
作業をすることができています。
人間関係のストレスが無い職場ほど
幸せなことは無いかもしれない、と思います。
学校の教室4つ分くらいの広大な部屋で
数人のスタッフが各々の作業を黙々と進める。
そこには静寂しかないのだけど
不思議と空気は張りつめず、明るい雰囲気が
ただよっているのです。
そんな訳で、終わりが見えないコロナ禍で
ドンヨリオロオロするわたしにとって、
絵画修復の仕事に向き合い過ごす時間は
ある種穏やかな精神統一のような、
瞑想に近い時間になっています。