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シルヴァーノのカルトッチョ 6 ボーロの冒険 6月29日

 

シルヴァーノ・ヴェストゥリ氏のカルトッチョ額縁

しつこく続けます。

思い返してみれば、自分が彫った木地以外に

一から石膏を塗って磨いて、と作業をするのは

初めてです。それだけに緊張するといいますか

彫刻した方への敬意をもって作業をしたいと思います。

 

それで・・・問題はボーロの色選び。

前回は黄色ボーロをベースとして4回塗り終えました。

その上に、凸部分に赤か暗赤か茶色か

とにかくもう一色のボーロを塗ろうと思ったわけです。

それが一般的な方法ですのでね。

で、思い出したのは先日得た知識

「フィレンツェでは茶色のボーロが多い」です。

茶色を塗って無難にいくかな。でもなぁ。

 

今回の額縁は、とにかく軽く薄く、を目指しています。

ボーロの色は箔の仕上がり色にも大変影響します。

茶色は重いし、赤だと派手だし、どうしたものか。

それで・・・黄色ボーロのみで箔を置いたらどうだろう、

と思ったのです。

▲前回に塗り終わった黄色ボーロ。

 

愛読書(?)の「Repertorio della cornice europea

をぱらぱらと見ていますと、こんな額縁を発見しました。

▲これもいわゆる「カルトッチョ額縁」と思われます。

 

解説に「preparazione a bolo giallo.」とあります。

「黄色ボーロで金箔下地をつくった」ということ。

それもフィレンツェでつくられた額縁で。

ふむふむ、ならば今回も黄色だけでも良いのではないか?

 

しつこく悩んだ挙句、金箔下地のボーロはこのまま

黄色一色で行くことに決定いたしました。

黄色ボーロで箔置き・・・じつは苦手なのですよ。

だけど、まぁこれも経験、練習です。

 

次回、箔置き開始です。さらにつづきます・・・。

 

 

修復の修復 6月25日

 

18世紀フランスの美しいデッサンが入っている

古い額縁の修復をしています。

欠けたり亀裂が入っている部分に

ウサギニカワを注入して留めて

ボローニャ石膏を足して整形します。

▲いつのとおなじレシピで作った石膏液を

 細い筆で繰り返しのせて欠損を埋めます。

 

上の写真の涙型の彫刻部分、

石膏が欠け落ちて木地が見えています。

以前の修復(修理)で、目立たないように

木地に金色のペイントを塗ったのですね。

今回はこれら「古い修復跡」の修復もします。

石膏で形を整えてボーロを塗って、

周囲と同様に純金で装飾して色合わせをします。

 

修復の修復って、じつは結構あります。

オリジナルに負担をかけないように

できるだけ美しい姿に近づけたいと思います。

 

 

シルヴァーノのカルトッチョ 5 黄色ボーロ 6月22日

 

シルヴァーノ・ヴェストゥリ氏のカルトッチョ額縁

制作を続けます。

ボローニャ石膏を塗り、紙やすりで磨きます。

なにせ薄くと心がけたものですから

ちょっと磨けばすぐに木が出てしまう。

でもこれは仕方なし。

あまり気にしすぎてドツボにはまってはいけません。

端先、葉のなめらかなカーブはきちんと磨き

丸の連なりは表面をかるく研ぐ程度で

隙間をひとつづつ磨いたりしません。

葉の裏側も貝の内側もぬりっぱなしです。

ただ、そうして磨きのメリハリをつける

(手抜きともいう・・・)ためには

正しい濃度の石膏液を適量、適度な厚さで

塗っておく必要があります。

 

つぎは金箔下地のボーロです。

この額縁のように凹凸がはげしいものには

とにもかくにもまず黄色のボーロを塗ります。

▲シャルボネ製の黄色ボーロ、黄色というかオレンジ色

 

これまた薄溶きの黄色ボーロを4回塗って終えます。

▲葉の裏側などにもぬりました。

 

そしてつぎ、黄色の上に塗るボーロは

明るい赤か暗い赤か、はたまた茶色にするか。

そこでふと思い出しました。

またまたつづきます・・・。

 

 

オークションのオンライン見学 6月18日

 

フィレンツェにあるオークションハウスPandolfini では

古い額縁専門のオークションがあります。

▲2018年4月に行われた額縁オークションのカタログ。

これは終わった後の11月に古書店で買いました。

 

今年2020年6月17日の現地時間10時から

額縁専門オークションが開かれましたので

オンラインで見学しました。

▲Pandolfini(パンドルフィーニ)の

インスタグラムよりお借りしました。

美しすぎてうっとり。額縁天国!

 

▲パンドルフィーニのオークションサイト

16日午前10時よりオークション開始です。

 

オークション開催前には実物が公開展示され、

オンラインカタログでは詳細な写真を見ることができます。

不明な点は電話で問い合わせれば答えてくれるとか。

 

▲オンラインカタログで出品作品の詳細を見ます。

 

当日、開始時間にパスワードを入れてログインすると

オークション会場の中継を見ながら入札することができます。

▲中央の女性が進行役。下の画面に入札価格が続々と入る。

入札が終わると木槌で「カン!」と打って落札を知らせる。

 

入札は会場にいるお客さんに加えて電話でする人

そしてオンラインでする人といて3つの方法で進められます。

表示価格より少し安いところから始まって、

人気の額縁は桁が変わるほどの競り合いになって

見ているだけで戦々恐々、ハラハラします。

テレビや映画で見ていた世界なのです。

 

約2時間で総数183枚の額縁が競り落とされました。

欲しいものを落札するには素早い判断と度胸が必要!

慣れと自制心も必要かもしれません。

 

大変に面白い社会見学でした。

いつか現地の会場でも見てみたい。

そして入札してみたい・・・ような怖いような。

 

 

携帯用フォトフレームについてしばし考える 6月15日

 

イタリア・フィレンツェにいる

わたしの額縁師匠パオラとマッシモから

日本の友人へのプレゼントを預かっています。

革でできた額縁。フォトフレームです。

このコロナ禍があともう少し落ち着いたら

お渡しする予定なのです。

 

2月の滞在時、工房で帰国のあいさつをしていたら

パオラが「そうだ!市場で買ったばかりだけど

これを渡してちょうだい!」と急きょ預かったのでした。

なのでまだ手入れもされていない状態です。

▲擦り切れたり傷がついていたり。汚れもあります。

 

左の青はフィレンツェの Pineider製、

右の緑はローマの A.Antinori製、

どちらも老舗、かなり有名店のものです。

(わたしも欲しい・・・でも預かり物。)

眺めていたら修理魂がムラムラ、

もう少し見栄え良くしてさしあげましょう・・・。

まずは固く絞ったウエスでかるく水拭きしてから

絵の具で補彩をしました。

 

▲こちらは濃い緑、もうひとつは深い青

補彩は濃い色のほうが薄い色より難しくありません。

 

そして少しのワックスで磨いて、これでどうでしょう。

まだ傷跡は見えるけれど、まぁぼちぼち。

▲緑にはガラスが入っていましたが荷物で割れてしまい

アクリルに交換しました。青は元から入っていた透明シート。

 

革のフォトフレームは軽くて薄くて丈夫です。

外国の方は長いバカンスに大切な写真を持っていきますよね。

これはきっと携帯用のフレームなのでしょう。

携帯用フォトフレーム・・・わたしも作ってみようかな。

すてきな布袋に入れたりして、良さそう良さそう。

でも、問題は薄さと軽さですね。ふむむ。

 

 

シルヴァーノのカルトッチョ 4 さらに考えた結果 6月11日

 

悩みが尽きないシルヴァーノのカルトッチョ木地です。

いつかこの額縁木地を見本にして摸刻したいと

企んでいるわけですが、それには木地のままが良い。

だけど。

シルヴァーノ氏はこの木地を彫るときに

石膏を塗ってボーロを塗って金箔で仕上げるという

次の作業を考慮していたはずです。

彫りの深さは仕上げによって決まるのですから。

 

ということは、やはりこれは本来の目的通りの

箔仕上げにするのがベストだろう、との結論に至りました。

やれやれ、悩みすぎましたけれど。

 

そうと決まればまずは下ニカワを塗りまして

▲目留めのためにウサギニカワを木地に塗ります。

濡れ色になりました。

 

かなり薄く溶いたボローニャ石膏溶液を

これまた薄く塗り重ねます。

とにかく液溜まりができないように

全体の厚さが均一にムラなくぬれるように

水分の表面張力を利用して塗ります。むずかしい。

▲石膏液の濃度は生クリームくらい。

もちろん泡立てる前の生クリーム。

細めの丸筆を使います。

 

4層塗って終えました。

これ以上でもこれ以下でもない、と思える厚さ

・・・のつもりです。

つぎは恐怖の紙やすり作業です。

 

 

取りもどす 6月08日

 

6月がはじまって、さまざまなことが

再開しました。

市が尾の古典技法教室 Atelier LAPIS も

1日から講座が再開になりました。

 

3,4,5月とお休みしているあいだに

3分の1の生徒さんが退会なさいました。

新幹線通学してくださっていた方

ご病気があった方、都心を通るのが不安な方

退会理由はどれも理解できるものばかりでした。

これからどうなるか・・・再開したいけれど

また休講になるかもしれません。

でもぐるぐる考えていても仕方がありません。

ここ数か月で対応も学びました。

出来る限りの予防をして、いまは前向きに。

そして何よりおだやかに。

日々の感覚を取りもどそうと思っています。

 

 

シルヴァーノのカルトッチョ 3 考えた結果 6月04日

 

シルヴァーノ・ヴェストゥリ氏のカルトッチョ額縁

イタリア・フィレンツェの額縁スタイルのカルトッチョ。

そのつづきであります。

 

分厚い石膏で繊細さがかくされていた彫刻木地、

一晩悩みましたが、石膏をすべて取り除くことに

意を決しました。

 

ボローニャ石膏は水溶性ですので、何年たっていても

水分を与えれば溶解します。

全部を取り除くとなれば、もう全体を濡らすしかありません。

たらいに入れた水をまわし掛けながら慎重に作業します。

修復用のヘラと歯ブラシを使いました。

▲水に漬け込んではいけません。

水を流しかけてはやさしくこすって取り除く。

慌てず焦らず赤ちゃんを沐浴させるような気持ちで。

 

濡らしてしまったことで木がふやけてケバ立ったり

膨らんでしまったりするのは仕方のないこと。

ですが紙やすりはかけません。

 

ちなみに

この木地は比較的新しいので直接水をかけても耐えられますが

古いの額縁修復時などにこの方法は使えません。

コットンで湿布をして石膏を柔らかくします。

くれぐれも古い木地にはご注意ください・・・。

 

一晩乾燥させてから彫刻刀でケバを取り除きます。

▲奥や葉の裏側など取り除けなかった石膏があります。

でもこれ以上の水の作業は負担です。

 

彫刻刀の素早い動きも感じられるような

シャープな切り口、繊細なラインが復活しました。

さて。

石膏をさらに取り除いてワックスを塗って

木地のまま仕上げにする選択もあります。

シルヴァーノ氏の彫刻を愛でるならそれもあり。

どうしよう、なにがこの額縁木地にベストか・・・。

 

さらに悩みはつづきます。

 

 

額縁の本「THE SANSOVINO FRAME」 6月01日

 

ひさしぶりに本のご紹介です。

「THE SANSOVINO FRAME」

ロンドンにあるナショナルギャラリーで2015年に

開催されたサンソヴィーノ額縁展のカタログです。

サンソヴィーノ額縁とは、主にイタリアの

ヴェネツィアで作られて流行した額縁デザインです。

下記にカタログ裏表紙の解説(機械翻訳)を添付します。

「16世紀後半のヴェネツィアでは

これまでに考案された最も独創的な額縁が作成され、

大胆な巻物、グロテスクなマスク、

人物が彫り込まれ装飾されていました。

彫刻家であり建築家でもあるジャコポサンソヴィーノに

ちなんで名付けられたこれらは、華やかで複雑なものから

静かで繊細でシンプルなものまでさまざまです。

ナショナルギャラリーでのサンソヴィーノフレームの

展示に伴うこの本では、作者は30を超える例、

採用された材料と技法およびそれらと図面、

版画、現代的な装飾、家具、木製の天井、

漆喰の丸天井との関係について説明しています。

16世紀のヴェネツィア。

この権威ある研究は、収集と展示の歴史、

そして特別なタイプの家具の理解に貢献します。」

▲裏表紙に上記が書かれています。

▲前半は歴史や解説、後半には展示された額縁の詳細

 

数年前にサンソヴィーノ額縁を作ってみて

その難しさと魅力をおおいに感じました。

▲2019年4月に完成させたサンソヴィーノ風額縁

平面的なリボン状の巻物とウロコ模様が

サンソヴィーノの分かりやすい特徴です。

 

展覧会をご覧になった方々も、きっと

ゴージャスでありながらすっきりと洗練された線、

すこし男性的とも感じられるデザインを楽しまれたでしょう。

こうした「額縁の展覧会」を公立の美術館で開催されるのが

羨ましい限りです。

人々の意識、興味と理解の違いは額縁史の長さの違い。

日本でも額縁に興味を持ってくださる人を増やすため、いつか!

 

この展覧会を見ることは叶いませんでしたが

カタログを眺めつつもうひとつ

ちいさなサンソヴィーノを作る計画を練っています。

 

「THE SANSOVINO FRAME」

The National Gallery

2015年発行