diario
それにも理由があるのです。 2月27日
KANESEI額縁の側面には、金箔はあまり貼りません。
黄茶色の金箔に近い色を塗って仕上げます。
その理由を聞かれることがあるですけれど、
まずはフィレンツェの額縁師匠マッシモ&パオラが
そうしていたから、というのが始まりではありますが
わたしなりに理由を言うとすれば。
純金箔って結構な迫力があります。
特に古色を付けたりすると迫力に重みも加わって
ともすると額縁の印象が強くなりすぎてしまう。
また、デッサン用などの細く繊細な額縁で
側面にも箔を貼ると太く重く見えるような気がします。
額縁は真正面からより斜めからのほうが
人の視界に入る場面は多いのです。
側面に「金ではないけれど金に似た色がある」と
印象が軽やかに、薄味になると言いましょうか。
作品を鑑賞するために正面から観るときには
しっかり箔の装飾があり作品とバランスをとりつつ、
斜めから見たときには額縁の存在を主張しすぎない、と言うか。
上手く言えませんが「押しが減る」ように
わたしは感じています。
額装する作品やサイズ、額縁のデザイン、飾る場所
そしてお客様のご注文によって
側面に金箔を貼る額縁も、もちろんあります。
とくに祭壇型額縁など側面に貼らない選択はありません。
正面には金箔を貼るのに側面には貼らないなんて
手抜き、ケチ(びんぼっちゃま風?懐かしい)と思われると
残念なのですけれど、理由もあるのです。
結局のところ好みの問題ではありますけれども
ご参考にしていただけたらと思います。
額縁の作り方 28 石膏塗りの筆選び 2月24日
古典技法額縁の制作では
ボローニャ石膏塗りは大切な工程
かつ一番難しい工程と言えるのではないでしょうか。
「手早く丁寧に!」をスローガンに
適度な濃度で適温にした石膏液を塗るには
筆選びが大切です。
わたしがいつも使っているのは
水性用の平筆、12~15ミリ幅くらいのものです。
メーカーによって微妙に号数が違いますが
この写真の筆は世界堂オリジナル筆14号。
やわらかい毛がたっぷりしていて抜け毛も少ないく
このシリーズは愛用しております。
もちろん塗る対象――テンペラ用の板なのか
彫刻の入った額縁木地なのか――によって
選ぶ筆のサイズと形状は変わりますが
やわらかい毛の筆、というのはいつも同じです。
乾いた筆をいきなり石膏液につっこまず、
まずはお湯で(湯煎した鍋の湯で)ゆすいで
ホコリを落とし、空気を抜きましょう。
ボローニャ石膏液を扱う指南書がさまざまありますが、
著者によって選ぶ道具はちがいます。
ある本によるとブタ毛の堅い丸筆や刷毛で
筆跡を残してガシガシと塗るとありました。
でもわたしは、可能な限り筆跡を残さず
石膏液の表面張力を利用して滑らかに塗るのが好きです。
滑らかな表面なら、次の辛い作業「石膏磨き」で
削る必要が少なく(つまり時短)、そして
気泡が入りづらいと感じているからです。
翌日の朝、かわいた石膏地に気泡はありませんでした。
石膏塗り成功でございます。バンザーイ。
みんな臭かった 2月20日
なにやら匂い(臭い)の話がつづきますが。
Atelier LAPIS の生徒さんがある日
「古いウサギニカワがあるのだけど、まだ
使えるかどうか・・・」とおっしゃるので
まずは見てみましょう、と持って来ていただきました。
下の写真、左が古いニカワ、右が現在のニカワ
どちらもホルベイン社製で
水10:乾燥ニカワ1の割合で作った溶液です。
▲乾燥ニカワは古くても、カビたりしていなければ使えます。
古いニカワ液の蓋を開けた途端、すさまじい臭い!
一度も洗ったことがない野良犬が濡れて蒸れたような
何とも言えないケモノの脂臭といいましょうか。
ビンの下にはすこし濁った澱もあります。
そうそう、これこれ!このニカワの強烈な臭いは
とても懐かしいのです。
わたしが初めてウサギニカワを使ってテンペラ画を
描いていた大学生の頃(かれこれ随分前の話・・・)
ウサギニカワと言えばこの感じ、それはそれは臭くて
研究室がこの臭いで満たされ、鼻がマヒしていました。
古いニカワは今のニカワより不純物が多いのでしょう。
だけど、この古いニカワのほうが古典的といいますか
ルネッサンス時代のニカワに近いでしょうし、気分的にも
「古典技法で制作しているのだ!」と盛り上がります。
数年前から「ニカワを溶かしても臭わないな、
鼻は楽だけど、なにか違う・・・」と思っていたのです。
久しぶりにクッサ~~い「ザ・ウサギニカワ」の臭いを嗅いで
なんだかとても楽しくなったのでした。
この臭い、フラ・アンジェリコもレオナルド・ダ・ヴィンチも
みんな嗅いで臭がっていたのでは・・・。
匂いの記憶 2月17日
先日、近くに用事があったのですが早めに着いたので
ずっと気になっていた「旧小坂家住宅」を訪ねました。
世田谷トラストまちづくり
二子玉川駅から少しあります。静嘉堂文庫美術館近く。
急な坂道沿いにあって、敷地面積は広いけれど
いわば崖とその周囲、といった感じの場所。
今は雑木林の敷地が公園になっているのと、
崖上にある邸宅が無料公開されている施設です。
世田谷区の指定有形文化財になっています。
訪ねたとき、他にお客様はだれもおらず
広いお屋敷内を迷いながら見学しました。
お茶室や内倉、ティンバー風の応接室など
とても凝った造りのお屋敷。
一番奥にたどり着いたら、そこは主寝室でした。
▲シャンデリアや石膏装飾の天井がすてき。
奥の盾状のものはこの家の主、小坂順造氏の肖像彫刻です。
左のカーテンの向こうがサンルーム。
サンルームからの眺めが素晴らしいのです。
庭の向こうには富士山も見える明るい部屋で
とても落ち着いた雰囲気、ほっとしました。
ほっとしたのは雰囲気だけではなくて、
なぜかとても良く知っているにおいがするのです。
もうずっと前に亡くなった祖父の家のにおい。
もちろん祖父の家はこんな立派なお屋敷ではありませんでしたが
独特の同じにおいがします。
古い家特有のにおい・・・だけではないのです。
なんと表現して良いのか分からないのだけど、
古い家具や少し湿度のある空気の、
絨毯や壁や、あらゆる物のにおい、でしょうか。
近くには、祖父が持っていたのと同じステレオが。
▲ビクターの古いステレオ、レコードとラジオです。
我が家にいまだに置いてあるので見間違えません。
そのほか、サッシではない窓や鍵、建具がそっくりだったりと
あまりに祖父を思わせるものが多くて
ぎょっとするやら懐かしいやら。
部屋着の着物姿の祖父がいても驚かない気持ちでした。
においの記憶って凄まじい。
脳の深いところから突然蘇ってきます。
不思議です。
ちょっとちょっと・・・クローン2つ発見 2月13日
我が家の庭に植えたヒヤシンス球根10個は
9つが無事に発芽しております。
どうやらピンクが1つ、まだ出ていない様子。
まだ眠っているのでしょうか。
それはさておき。
天気が良かった今日、じっくり観察したのですが
おや・・・なんだか変な形が。
なんと、すでに分球して発芽しているのでは??
▲右側に2つ、しっかり花芽もあるような。
いやいや、ちょっとちょっと
あなた誰?(何色?)
もう家族を増やさなくて良いのですよ。
生物の宿命か、子孫繁栄は自然の成り行きですか。
(これ以上球根が増えると植える場所に困ります・・・)
ううーむ。
なにはともあれ、健康に成長することを願いつつ
観察を続けます。
今までとは違う気持ちで 2月10日
ベルナール・ビュフェ美術館に行きました。
一緒に行った人の希望で立ち寄りましたので
わたしは何となく、大した興味もなく行ったのですが。
久しぶりに、というのもなんですが
とても感動しました。
期待していなかったのも大きいかもしれません。
(失礼な話です、すみません。)
▲写真はベルナール・ビュフェ美術館H.Pからお借りしました。
ビュフェの作品はいままでにも何度か
目にすることはありましたが、正直なところ
あまり好みではなくて流し見していました。
今回、若いころの作品から小品、大作など
まとめて鑑賞することができました。
第二次大戦中にもあきらめずシーツに描いたこと
自画像をずっと描き続けていたこと
特徴的な黒い線が誕生したころのこと
苦悩したこと、感じたこと考えていたことなどなど。
作品もさることながら、専門に扱う美術館なので
丁寧に解説、展示がされていたことで理解が深まりました。
美術館設立者がビュフェ作品にほれ込んで集めた
とのことで、その愛情と熱意も感じられました。
額縁もスタイリッシュでかっこいいものがありました。
ガラスが入っていないので、絵の色艶やタッチが
手に取るようにわかるのも素晴らしいのです。
以前に流し見していたころと比べて
自分の精神状態も経験も変わったからかもしれません。
でも今後またビュフェの作品を観る機会があれば、
きっと今までとは違う心持で鑑賞することが
できるような気がします。
東京からすこし遠いけれど、旅気分でぜひ。
おすすめです。
比べ物にならない美しさなのに 2月06日
いまお預かりして修復している額縁は
19世紀にイギリスで作られた額縁です。
持ち主何人かを渡って、最近日本に着いたところ。
装飾の少しの欠けはありますが
さすが木地本体は緩みもゆがみもなく
申し分ない状態です。
けれども。
以前の持ち主の方が修理を試みたのか、
純金箔の上に銀色のペイントがあります。
下部端先、とても目に付く場所なのです。
今回の修復目的のひとつは、このペイント除去。
▲美しい純金箔の上に銀色の謎のペイントが。
ちぐはぐでおかしい。
溶剤テストをして、これぞという溶剤が決まったら
綿棒に浸してペイントを少しずつ取り除きます。
▲綿埃もいっしょに塗りこまれているペイント。
除去は急がば回れ。丁寧に根気強く。
銀色ペイントの下から純金箔と
赤色ボーロが見えてきましたよ。
▲綿棒には目的の銀色ペイントのみの付着。
金や赤が付いていないことを確認します。
恐らく「金箔が経年で擦れてしまった結果
赤色ボーロが見えて気になる。
金色はないけれど手近に銀色塗料があったから
ひとまず塗ってみた」のでしょうけれど・・・
なぜ「銀色でもいいや」と思ったのかは謎。
古色好きなわたしにとっては、銀色ペイントより
経年で擦れた純金箔とボーロの色のほうが
比べ物にならないほど美しいのです。
さて。
おおよそ除去できました。仕上げまでもう少し、
そして純金箔を補ってこの部分の作業は完成です。
Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2020年2月№1 2月03日
さて、続いておりますLAPIS生徒さん作品紹介、
本日はMIさんの小箱です。
わたしがLAPISアトリエでもガサゴソと作業をしていると
生徒さん方はとても興味を持って見てくださるのですが、
小箱も「作ってみたい!」と思ってくださる
制作のひとつです。
小箱木地は市販の桐材でつくられたもの。
それにいつもの古典技法どおりに石膏地を作り
線刻をしてから箔を貼り磨き、
今回はテンペラ絵具で彩色しました。
▲サイズは90×100mmくらいでしょうか。
この細かい模様と細い線!いやはや。
イギリス留学経験のあるMIさんなので、
イギリスの模様を入れてみたそうです。
前側には箱の蓋と身の合印もいれました。
蓋を閉じるときに向きを迷わないように。
入れるものは決まっていないそうですが、
それを考えるのもこれからのお愉しみです!