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あの記憶を失いたくない 10月23日

 

毎年この時期、秋がはじまると

今年は行こうかな、と迷うけれど

結局行かずに冬を迎えてしまう場所があります。

 

何年も前に行った湖は細い山道を登って行った先にあって、

夏はバーベキューや水遊び、釣りを楽しむ人で

かなりにぎわう場所のようでしたが

わたしたちが行った11月のはじめは誰もいなくて

駐車場はガラガラ、お店も閉まっていました。

 

とてもよく晴れた風の強い日でした。

澄み切ったつめたい空気、

ひざ丈の草がザーザーとたなびき、水面もさざ波だって

ちぎれた雲が飛んでいきます。

青空が湖面に映るけれど、もっと青く深い。

色と匂いと空気の冷たさがどれも強いのです。

あまりに美しすぎる、と言いましょうか。

今ここと、夢あるいは死後の世界の境のような

この世ならぬ場所のような現実味のない感じで

呆然と眺めました。

 

美しさの記憶が鮮明で強すぎて、

もう一度行きたいけれど、

あの時とすこしでも違ったら夢から覚めてしまう、

あの記憶が丸ごと失われてしまうかもしれない、

そんな恐怖もあって、それ以来行っていません。

憧れは憧れのままに、

美しい記憶がひとつでもあるなら、壊さないように

大切にしたほうが良いのかもしないけれど。

やっぱりいつか行きたい、と思っています。