diario
5mmの空間をつくる 10月30日
銀座6丁目にある「画廊るたん」のオーナーは
大学の大先輩でして
わたしが額縁を作り始めたころから
仕事を下さり応援してくださり・・・
とてもお世話になっております。
その画廊るたん所蔵の作品を額装させていただきました。
佐野ぬい先生の版画です。
この額縁は、オーナーとわたしとふたり一緒に
デザインを考えて作った思い入れのある額縁です。
銀箔艶消しで細い枠、変哲もないのですが
側面は木地仕上げです。(写真が悪くてすみません。)
一般的な版画の額縁はマットとガラスが接していますが
この額縁ではオーナーのアイディアで
マットとアクリルガラスの間にはスペースを作っています。
ほんの5mm厚の空間がつくる趣と影ができました。
シンプルなだけに珍しくもないデザインです。
何気ないことばかりですけれど、こうした
ちょっとしたことが作るうえでの楽しみですし
見る方が気づいてくださるとうれしい。
こちらの作品は画廊るたんでご覧いただけます。
お近くにお越しの際はどうぞお立ち寄りください。
Firenze 2018 tempo calma №20 10月28日
サン・マルコ美術館にはフラ・アンジェリコ作品以外にも
もちろんほかの作家の作品もありますし
古い遺構の装飾なども展示されています。
ギルランダイオの最後の晩餐図もあります。
だけどわたしにとってここは「フラ・アンジェリコ美術館」。
2階の写本室(図書室でしょうか)には写本展示もあり
フレスコ画やテンペラ画とは違う美しさが堪能できます。
その薄暗い部屋の一番奥に、画材紹介がされていました。
▲写本室入り口。柱列がうつくしい。そして誰もいない。
おそらくルネッサンス時代に使われていた画材紹介で
顔料、膠、筆と樹脂など。
顔料は9色ありました。
黒=ワインブラック(葡萄の種などを炭化・粉末にしたもの)
白=鉛白(塩基性炭酸鉛)
青=ウルトラマリン(貴石ラピスラズリの粉末)
黄=イエローオーカー(天然土系顔料)
=ローシェンナ(天然土系顔料)
茶=鉛丹(四酸化三鉛)
=バーントシェンナ(天然土系顔料)
緑=テルベルト(天然土系顔料)
赤=辰砂(硫化水銀)
=レッドラック(カイガラムシ由来の染料)
あとはアラビアガムの樹脂、クローブの枝、金粉。
樟脳、板状にした魚ニカワ。
クローブの枝と樟脳は何に使ったのかわかりませんでした。
これらを使ってフラ・アンジェリコもここで描いたのだなぁ、
などと考えると感慨深い気持ちになります。
映画「薔薇の名前」ではショーン・コネリー扮する修道士
「バスカヴィルのウィリアム」が写本の謎を解きますが、
その映画では1300年代の修道士が写本を描いていた
北イタリアの修道院にある写本室や様子が再現されていて、
とても興味深く面白いのです。
▲サン・マルコの写本室。
窓は小さくて、当時はもっとずっと薄暗かったと思われます。
きっとアンジェリコたちサン・マルコ修道院の修道士たちも
あの映画とあまり変わらない環境で、上の写真のような
道具と材料で写本やテンペラ画を描いては祈る、
そんな生活をしていたのでしょう。
▲写本室正面の窓からは中庭が見下ろせる。
アンジェリコも見たであろう風景です。
どんなことを考えながら描いていたのかなぁ・・・。
日が暮れて暗くなってきたら、その日の仕事は終わり。
きっとこの窓の前で深呼吸などしたのではないでしょうか。
小さなかわいこちゃん4 10月25日
久しぶりになりました「小さなかわいこちゃん」
小さい祭壇型額縁であります。
金を貼り磨き、いよいよ装飾をします。
▲装飾模様の下描きを作りました。
当初の予定では、金の上にテンペラ絵具を塗り
絵具をかき落として金を出す「グラッフィート」で
ルネッサンス風模様を入れるのでしたが、
ご注文くださったお客様が「せっかく金だし
やはり全面金で仕上げてほしい」とのお話。
合点承知でございます!ということで
細いメノウ棒で点を打って模様にします。
カーボン紙で模様を転写して、点を打つ。
磨かれた金の上のカーボンはティッシュで拭えば
すぐに落とすことができます。
その代わり手で触っても落ちてしまいますから
狭い範囲を転写して打って、また転写して、と
繰り返すほうが安全です。
この技法、なんでしょうか。やはり刻印でしょうか。
メノウによる点刻印、とでもさせていただきます。
この極細のメノウ棒は大変便利です。
額縁やテンペラ画用ではなくポーセレン用。
陶器の絵付けで使うために作られたメノウ棒です。
東急ハンズで購入しました。おすすめです。
落とすとすぐに折れますので扱いは要注意。
てんてん、てんてん、てんてんてん・・・
ひたすらに点々打ち。
今宵もまた「♪か~さんは~夜なべ~をして~」と
歌いながら夜なべ点々作業です。
あの記憶を失いたくない 10月23日
毎年この時期、秋がはじまると
今年は行こうかな、と迷うけれど
結局行かずに冬を迎えてしまう場所があります。
何年も前に行った湖は細い山道を登って行った先にあって、
夏はバーベキューや水遊び、釣りを楽しむ人で
かなりにぎわう場所のようでしたが
わたしたちが行った11月のはじめは誰もいなくて
駐車場はガラガラ、お店も閉まっていました。
とてもよく晴れた風の強い日でした。
澄み切ったつめたい空気、
ひざ丈の草がザーザーとたなびき、水面もさざ波だって
ちぎれた雲が飛んでいきます。
青空が湖面に映るけれど、もっと青く深い。
色と匂いと空気の冷たさがどれも強いのです。
あまりに美しすぎる、と言いましょうか。
今ここと、夢あるいは死後の世界の境のような
この世ならぬ場所のような現実味のない感じで
呆然と眺めました。
美しさの記憶が鮮明で強すぎて、
もう一度行きたいけれど、
あの時とすこしでも違ったら夢から覚めてしまう、
あの記憶が丸ごと失われてしまうかもしれない、
そんな恐怖もあって、それ以来行っていません。
憧れは憧れのままに、
美しい記憶がひとつでもあるなら、壊さないように
大切にしたほうが良いのかもしないけれど。
やっぱりいつか行きたい、と思っています。
額縁用じゃなくても額縁に。 10月21日
いつもお世話になっている額縁材メーカーさんから
新しいカタログが届いて、新商品にわくわくしつつ
さっそく新商品木地を使った額縁を作っています。
アユース材の薄い木地に丸〇とフリルのような
ちょっとした彫刻をしました。
この木地、メーカーさんのお話によると
額縁用ではなくて建材(内装)用として作ったとのこと。
どおりでドロ足(裏側にある、絵を入れる枠)がありません。
▲だいぶ薄くて華奢な木地なのです。
▲裏。ぺらっと薄くて、いわゆる額縁の形ではありません。
ドロ足がないので薄板を組んであるだけ、といった趣き。
たしかに額縁と建築は切っても切れない仲です。
額縁は元はといえば窓枠や扉枠から派生していますから。
建築の様式はそのまま額縁の様式に通じます。
2016年2月に完成した「
内装メーカーの棹木地を使って作ったのでした。
この時もやはりドロ足を作りました。
さて、このままではただの四角い木・・・ですので
ドロ足を取り付けます。
▲10×25mmの材を組んで取り付けます。
これから濃い茶色に染めて、ワックスで古色を足して
かわいらしい犬の版画を納める予定です。
新しいデザインの額縁を作る楽しさ、格別です。
平らは良い。 10月18日
つめ込み過ぎているわたしの本棚は
棚板がすこしずつたわんでいましたが
とうとう本を取り出すにも戻すにも
おおきな労力が必要なほどになったので
棚板を交換をすることにしました。
家族に相談したら、奥から長ーい
板が登場しました。
なんと、祖母が使っていたという
着物の洗い張り用の板ですって。
もう何十年も物置で眠っていた板。
反りも無く面取りされて美しいままです。
これを切って、ダボ用のミゾをルーターで入れて
(すべて家族がしてくれた作業です・・・)
無事に棚板2枚を交換することができました。
本が平らに並んでいるってすばらしい。
すっと取ってさっと戻せるってすばらしい。
本体に合わせて茶色に塗ることも考えましたが
祖母が使っていた当時のままにしています。
おばあちゃん、ありがとう。
額縁の作り方 25 差し箱の向き 10月16日
本日は番外といいますか余談といいますか。
額縁を保存するための箱「差し箱」の向きについて。
額縁を黄袋(黄色い布の袋)に入れてから
差し込み式の箱に収納する場合、
画面はどちらに向けるのか。
Atelier LAPIS の生徒さんにも質問されましたし
疑問に思われるお客さまも多い様子です。
▲こちら差し箱と黄袋。
一般的に段ボール製ですが、布を貼ったタトウ箱もあります。
昔、いろいろな方に質問しましたが諸説あって
結論として向きに決まりは無かったのです。
その中でわたしがしっくりきた答えは
『紐具のある面に画面をむけて収納』でした。
随分前に、あるギャラリーオーナーにお聞きした時
「じゃあ差し箱を壁に立てかけて置いてごらん」
と言われて、わたしは紐具面を表に置きました。
「ね、自然に置くとその向きでしょう、だから
絵の表もおなじだよ。」とのお話でした。
▲箱の紐金具がついている面と額縁の表を合わせる。
そして紐をくるくる巻き付けて閉じる。
わたしはこの向きで入れていますが
反対向きに入れるほうが安全という方もいらして、
どちらが正しいかはそれぞれ。
▲裏側には何もありません。
蓋を閉じる前に黄袋のくちの処理もします。
黄袋に入れて箱に入れて、蓋をしますけれど
黄袋のくちをきちんと畳んだほうが
蓋はきちんと閉じます。
そして次に開けたときも美しい。
たまに黄袋がグチャッとつっ込まれた額縁に会いますが
ものがなしい気分になります。
いちいち細かいですか?
でもこうした小さなことって、案外と人の目に
留まっているものですから
気を付けるに越したことはありません。
▲黄袋を畳まないと額縁も箱内で不安定になる。
ちなみに!どちら向きに箱に入れたとしても!
差し箱に入れた作品を何枚も立てかけるとき。
たとえば棚に収納したり、搬入搬出のときなど。
画面はかならず中合わせにしてください。
A、B、C、Dと箱に入った作品4枚があったなら
A表とB表、B背中とC背中、そしてC表とD表。
「前へならえ」(すべて同じ向き)ではありません。
これ、昔々に「前へならえ」で並べてしまい
こっぴどく怒られた思い出があります・・・。
ヒヤ子よ、目覚めてしまったのか 10月14日
初夏に土から掘りあげてからずっと
日の当たらない風の通り道で眠っていた
ヒヤシンスの球根軍団ですが、ふと見たら。
なんと・・・根が出始めているではありませんか。
こんなこと初めてです。
目が覚めちゃったのかい??
まだ秋が始まったばかりですよ。
土に植えるのはまだ先の予定ですよ!
ちなみに、根が出始めているのはヒヤ子のみ。
クローンを数々生み出した生命力、この強さ。
根にも表れているのでしょうか。
あやかりたい。分けてほしい。
いや、それにしてもどうしたものでしょう。
もう植えるサインということでしょうか?
植えたほうが良いのでしょうか??
思春期の娘に「はやくしてよ!」と睨まれている母・・・
のような気分であります。オロオロ。
その作者はいったい誰 10月11日
Lawrence Alma-Tadema
ローレンス・アルマ=タデマ
イギリス・ヴィクトリア朝時代の画家で
古代ギリシャ・ローマや古代エジプト等歴史を
テーマにした写実の作品を残しています。(wikipediaより)
特に古代ローマの神殿や美しい女性の髪、服などの描写は
引き込まれるような魅力にあふれています。
“The Roses of Heliogabalus”
Sir Lawrence Alma–Tadema 1888
見よ、このバラの花びらの描写を・・・!
そのアルマ=タデマ作品には祭壇型額縁が多く使われていて
折々に彼の額縁について調べています。
すでに先月のお話なのですけれど、
東京で観られる場所はないかな、と探したところ
八王子にある東京富士美術館が1点所蔵しており
常設展で公開中、それも9月16日まで!
最終日間近に大いそぎで行ってまいりました。
「古代ローマのスタジオ」という作品です。
絵の詳しい解説は上記リンクをご覧いただくとして
額縁はやはり金の祭壇型額縁がつけられていました。
額縁写真をご紹介できないのが残念ですが
作品が板絵ということもあるけれど、額縁の薄さに驚き。
薄いというだけで繊細さが倍増している印象です。
ボーロは赤色、金に褐色の古色加工がされている可能性。
彫刻の装飾もegg&dart , lambstongue など帯状にシンプルで
柱頭だけ細かい渦巻のイオニア式装飾がある・・・。
とにかく繊細で、石膏層が薄く硬質な美しさ。
装飾的なのに無駄が一切ないというか。
ぜひ” Alma-Tadema frame”で検索してみてください。
素晴らしい額縁がいろいろと登場します。
アルマ=タデマは自分で額縁のデザインをしたそうですが
これだけの額縁を作る職人さん、一体どんな方だったのだろう。
富士美術館の額縁は比較的シンプルですが
もっと大きく凝った額縁がたくさんありますから。
なにせ超絶技巧の装飾で、一瞬目が点になります。
完璧主義という彼の人柄が額縁からも感じられるのです。
トーマス・モーという説もあり、でも彼は指物師だから
装飾はできなかったのではないか、という反論もあり。
Sir Lawrence Alma–Tadema
Sir がある通り、1899年に騎士の称号を得ました。
温かな人柄、完璧主義者、そして堅実なビジネスマンでもあったとか。
ロンドンには数々の額縁工房がありましたから
きっとそのうちのどこか、という有力な説もあって
いやぁもうアルマ=タデマの額縁研究だけで
充実した論文になりそうです。
額縁は歴史も材料技法もすべて面白いです。
そして作るのも修復するのも面白いのです。
額縁の海は広すぎて深すぎて、いやはや。
額縁の作り方 24 線刻で模様を入れる 10月09日
このKANESEIブログで一番ご覧いただいているのが
「額縁の作り方」なのは、やはりそうなのかな
という気持ちでおります。
額縁にご興味を持ってくださる方が
おひとりでも増えれば!と願いつつ。
今日の「額縁の作り方」は線刻です。
▲細い線で入っている模様は線刻で入れています。
ボローニャ石膏を塗り磨いたら模様を下描き。
そして線で模様を彫るように入れます。
わたしが使っているのは、エッチングのニードルと
ドライバーセットに入っている千枚通しです。
細い線はニードル、太い線は千枚通しと使い分けて。
▲釘を加工した道具を作っても可。先端が円錐形であることが大事。
穴あけのキリのような角錐形ではなくて円錐形がベストです。
今回は模写作品を入れる額縁にとりつける
ライナーにタイトルと名前を線刻しました。
ヴィクトリア時代やラファエル前派のころ
額縁に文字を装飾することが流行しました。
当時の額縁にある美しくそろって凹んでいる文字は
おそらく刻印(金属の活字(文字型)を打つ)
で入れてあるのではないかなぁと思っています。
これはわたしの想像です。まだ調べていません。
▲ひとまず細く入れてから、すこしずつ太くしたり修正したり。
さて今回は小さな文字を線刻で入れねばなりません。
活字は持っておりませんので・・・。
文字を装飾に入れるのは昔から大好きですが
じつは文字の線刻ははじめてでして。
ちょっと練習したりしたのですけれど、
結局のところ定規を使ったりするよりも
息をつめて丁寧にフリーハンドで刻むのが
比較的きれいにできることがわかりました。
とはいえ、文字線刻に関しては改善の余地大いにあり。
ニードルの線がきれいに出なくなったら
紙やすりでニードル先端を磨いて整えます。
この技法は線の美しさが命です。
飽きるまで迷えばよろしい。 10月07日
「決まらない」だの「思いつかない」だの
ぶーぶー愚痴を言っておりましたが
(失礼いたしました。反省。)
ガタガタと日々過ごしているあいだに
どうやら通り過ぎたようです。
駄々をこねていた子供があるとき唐突に
「もう『迷う遊び』に飽きました。」に至って、
霧が晴れて、という感じ。
迷い期は辛いけれど、終わりが来ると知っている。
迷ったり悩んだりするのも、考えてみれば
迷ったり悩んだりする余裕(時間)が
あるのですからね・・・。
本人は必死だけど、俯瞰で観ればまだ甘い、
そんなものなんだろうと思います。
追い詰められたり諦めたりした訳ではなくて。
飽きるまで迷って、霧が晴れて、また迷って
それを繰り返しながら生きています。
きっと死ぬまで続くんだろうなぁ。
記録の方法と記憶のゆくえ 10月04日
気づけばそれなりの数の額縁を作りました。
デザイン画の形で記録保存してきましたけれど
きちんと統一したデータで残すべき、であります。
いや、今さらなのですけれども。
何年も前のと同じサイズと仕様の額縁を作ってほしい
なんてご依頼も当然あるわけですし。
ひとりで考えてひとりで作っているから
今まで済んでいただけで、これは良くないでしょう。
いや、今後もひとりの予定ですけれど、それはさておき。
記録の方法を模索中です。
いやほんと、今さらなのです・・・。
記憶はどんどん薄れていくのです。
明るい乙女の嫁入り支度。 10月02日
チューリップも含めて3点すべて額縁に納まりました。
昨年は暗い背景絵に黒い額縁ですっかり
根暗な乙女に迷走しておりました。
今年はちょっと反省いたしまして。
▲青空とお花と鼓笛隊、どうです、明るいでしょう!
▲のんきそうな鼓笛隊と
▲ルネッサンス時代の貴婦人です。
これら3点は、今年も今年とて暮の12月に行われる
「小さい絵」展に出品するべく準備しております。
気分は相変わらず「娘を嫁がせる母」でございます・・・。
「小さい絵」展の詳細は、またお知らせさせてください。