diario
古いニカワの香り 12月28日
先日、イギリスの額縁修理をしました。
5mm厚のペーパーボードに油彩で描かれた作品が納められています。
裏板は無く、作品を釘で留めて模造紙を貼り込んであります。
この「裏板無し」スタイルはヨーロッパで良く見られ、
珍しくありません。
裏板でガードするのが普通の日本では、ちょっと心配。
なにせ、作品の裏側はほぼむき出しですから。
酸化して破れた紙を取り除き、新しく裏板を取付けることになりました。
この紙、額縁木枠にはもちろん、作品の裏にも
ベッタリとニカワで貼りつけられていたのでした。
豪快というか適当(失礼!)というか…トホホ。
パリパリになった紙はもう粉になりながら簡単にはがれる状態。
ですが、作品の裏に付いたニカワは取り除けません。
作品裏に関しては額縁修復の範疇外ですので仕方ありません。
今後もし問題が発生するようなら、絵画修復師のもとで
処置をして頂くことにしましょう。
さて、木地に残ったカリカリになったニカワは
しっかりと紙やすりで丁寧に取り除きます。
ところでこの古いニカワは、不思議な匂いがするのです。
甘い砂糖のような、キャラメルのような。
新しいニカワは動物的な臭さがありますから、その変化が謎なのです。
この不思議な匂いを嗅いだとたんに
フィレンツェ留学時代の木工修復教室の匂いを思い出しました。
懐かしいキャラメルの匂い。
ノスタルジックな気分になりながら磨いた木地は
補彩、補整してバンパーを入れてスッキリ蘇らせましょう。
作品を戻し入れ、新しい裏板で閉じたら完成です。