top » diario

diario

新聞紙の可否 8月31日

 

洗浄と補彩でお預かりした、昭和に作られた額縁。

ご依頼主は最近手に入れられて、まずはメンテナンスとして

KANESEIにて健康診断です。

作品は大きめの色紙に描かれた日本がが収まっています。

裏板はトンボ金具で留まっていますので

レディメイドの額縁かもしれません。

 

さて・・・

まずはホコリを刷毛ではらって拭いて、

紐や金具も錆びたり傷んでいますので全部取り替え。

すべて外して裏板を開けましょう。

じゃーん!

中から現れたのは、新聞紙でした。

額装したお店で入れた・・・とは思えない(思いたくない)ので

おそらく前の持ち主の方が入れたのでしょうか。

sinbun

さらに内部を見たところ、マットに三角コーナーをテープ留して

作品を保持していましたが、このテープが酸化して剥がれ気味です。

きっと額縁の中で、作品が浮いたり歪んだりしはじめたので

裏板で圧迫して応急処置しよう、と思われたのかもしれません。

 

「額縁の厚さ調整に新聞紙を入れることは可か否か?」

新聞のインクには防虫効果があるとか

余計な湿気を吸い取るから良い、なんてことも聞きますが

額縁にはお勧めしません。

湿気を吸った新聞紙を交換しないなら本末転倒。

さらにはカビやホコリの温床、酸化した新聞紙には

虫ももちろん住み着くでしょう。

想像するだに恐ろしいぞっとする場面が広がります・・・。

 

最近は保存に優れた中性のボードなどがありますので、

お近くの額縁店や画材店にご相談いただきたいと思います。

KANESEIへのご依頼もお待ちしております。

 

 

たとえ売られようとも 8月27日

 

骨董市にいくと目に留まるのは大工や指物の道具の店。

以前から使い古しの-骨董市なので古いのは当たり前だけど-

物差しや薬匙、小さな金槌を買ってきては使っています。

だけど刃物だけは・・・

いったい誰が使っていたのだろう。

どんな経緯で骨董市にたどり着いたのだろう。

前の持ち主は市場に並ぶ自分の道具を見て、どう思うだろう。

そんなことを考えていると

いかに立派なノミや彫刻刀が並ぼうとも、

それらの道具を売買することが好ましく思えませんでした。

刃物は手入れも特別必要ですし、多くの場合は木を切ってきたわけで、

それら木が持っていた命の断片と、道具の持ち主の「気」が

沁み込みすぎているような・・・ちょっとした怖さもあったのです。

dougu

先日行った骨董市で、家族が箱に納められた道具一揃いを買いました。

おそらく前の持ち主が使っていたであろう姿のままです。

ノミにカンナ、旋盤の道具。試作のような破片も一緒でした。

その道具を見ていたら、なんだかふと思いました。

きっとこの道具を手放さねばならなかった前の持ち主は

自分の道具が市場に並ぼうが二束三文で売られようが、

大切に使ってくれる人物、自分がどのように使ってきたのか

理解して尊重してくれる人物が引き継いでくれたら

それ以上のことはないのだろうな。

埃をかぶっていたり廃棄されてしまう道具の方が

きっと何倍もの数あるはずなのですから。

 

わたしが死ぬとき、メノウ棒と箔ナイフを

誰か引き続き使ってくれる人に渡すことができれば、

と思いました。

 

 

そうしてできた額縁は 8月24日

 

先日の「落書きいちばん」でご紹介していた額縁は

描いたり消したり、オーナメントをあっちこっち検討したり

実はなかなかデザインが決まらないのでした。

そうして、ようやく出来上がった額縁。

s-alloro-1a

額縁師匠マッシモ氏から頂戴した古い金具から型取りした

花のオーナメントと、月桂樹を石膏盛り上げで入れました。

オーナメントを、四隅に入れるか中央に入れるかで

雰囲気も印象もガラリと変わります。

alloro-1b

静物画やバストアップの人物画などに、いかがでしょうか。

 

* 「works」内「classical」にこちらの額縁をアップいたしました。

どうぞご覧下さい。

 

落書きいちばん 8月20日

 

額縁のデザインを考えるとき、中に納める作品とのバランス

ご注文くださったお客様のお好みや飾る部屋との相性が大切です。

要らない紙の裏側などに落書きのようにスケッチをしながら

徐々に整理して、まとまったら改めてデザイン画に描き起こします。

そしてまた、自分の自由にできる(ご注文品では無い)額縁の

デザインを考えるときは、額縁木地に直接スケッチをすることも。

ちょっとしたバランスや色のイメージも

実物の額縁木地の上で考えて、臨機応変です。

rakugaki

ボローニャ石膏の白い地の上に鉛筆で、ガサゴソと描いたり消したり。

オーナメントをあっちに乗せたりこっちに乗せたり。

そうして線を選んだらトレーシングペーパーに写してから

全体に転写してデザイン完成、一件落着。

 

・・・そのつもりが。

昨日の夕方「これで決まり!」と思っても

今日の朝見たら「なんじゃこりゃ」ということもあったりして

また描いたり消したり、あっちこっち。

デザイン画をきっちり描いた時は、制作中に迷うことは少ないのですが。

変更可能に気の向くままに作るので、迷いもまた楽し。

 

昭和46年8月18日水曜日 8月17日

 

頂き物の骨董には古い新聞が詰められていました。

昭和46年8月18日土曜日の読売新聞です。

今から43年と364日前、夏の新聞。

2015-03-06 16.36.17

7面には映画の紹介がありました。

「-イタリアのメロドラマ- ベニスの愛 近く公開」

2015-03-06 16.36.48

古い映画です。初めて聞いたタイトルでしたが

ヴェネチアが舞台の映画ときたら!早速観てみました。

イタリアでもヒットして、いくつも受賞したとか。

anonimo-veneziano

今は別れて暮らす夫婦が数年ぶりに会って

お互いに探るような質問をして道端で激しい口論をしたかと思えば

しあわせだったころの思い出話をして笑いあったり。

展開はゆっくりですが、過去と現在の行き来、喜怒哀楽の激しさで

観ているわたしは感情がついていけない場面もちらほら。

ほとんどのシーンがふたりの会話で進んでいきます。

やがて夫が不治の病で余命も短いことを打ち明けて・・・。

 

これぞメロドラマ中のメロドラマ。

音楽も舞台も設定も なにもかもがロマンチックなのでした。

わたしが好きなマルチェッロのアダージョが使われていますが

以前お話した映画「ソフィアの夜明け」にも

バッハの編曲によるコンチェルト974をグールド演奏で使われました。

この「ベニスの愛」でも「ソフィアの夜明け」でも

とても大切なシーンで使われている曲です。

たしかにとても心揺さぶられる曲なので

この曲の持つ力も感じられるのでした。

Anonimous_venetian

この映画、邦題は「ベニスの愛」ですが

オリジナルは「anonimo Veneziano」

訳すと「名も無いヴェネチア人」とでも言いましょうか。

この違いも面白いですね。

 

昭和46年の夏 この映画を映画館で見た人たちは

どんな感想を持ったのでしょうか。

原題の意味も知る機会があったでしょうか。

なににせよ、この映画を観てヴェネチアへの旅に出た人も

きっといたはず!と思っています。

 

 

Atelier LAPIS(アトリエ ラピス)の様子から 2015年8月 8月13日

 

古典技法の工房兼教室 atelier LAPIS は、駅から歩いて3分という

大変便利な場所にありますが、その3分間も辛い猛暑の月曜日。

アトリエではテンペラを描いたり彫刻をしたりと

外の暑さに負けないような静かな熱気に包まれた時間が過ぎます。

 

lapis2015 (4)

NAさんはフィリッポ・リッピの聖母子を部分模写。

背景は金にアレンジしています。

lapis2015 (1)

HAMさんはフラ・アンジェリコの聖母子の天使を模写ですが、

背景は黄金のタペストリーになっていて、

写真では良く分かりませんが、すべて線で織り模様を表現しています。

lapis2015 (2)

MIさんはカマボコ板を下地に使った小さなテンペラを制作しています。

夏らしい金魚。目を入れようと構えたところです。「いざ!」

lapis2015 (3)

HAさんは今日から新しい額縁の制作に入りました。

デザインはすで頭の中で出来上がっていたので

コンパスを使ってさっと印をつけ、あっという間に彫り開始です。

アトリエにはスイスの彫刻刀も揃えてありますが、

HAさんは以前弟子入りしておられた彫師師匠の下で揃えた

日本の彫刻刀をご持参です。

lapis2015 (5)

TAさんは前回、生まれて初めて電動糸ノコとドリルを使って

丁寧に切り出した額縁に、いよいよ彫刻開始です。

エレガントなデザインはマニエリズム風?

 

筆をガラス器でゆすぐ音、彫刻のサクサクという音、

またノミを木槌で打つ音が加わって

雰囲気はすっかりルネッサンス時代の修道院のアトリエか

大きな工房のようです。

さしずめわたしは親方でしょうか!

・・・違いますね。

こっそり見守りつつ、必要以上に干渉せず、の精神で

生徒さんの影分身のような気持ちでいます。

 

根を詰めすぎると呼吸が浅くなって、気づいた時には

頭が痛くなっていることがあります。

生徒さんの質問に答えたり、相談に乗ったりということはもちろんですが、

「さぁちょっと深呼吸しましょう!」と声をかけるのも

わたしの大切な仕事のひとつです。

 

 

モジャコンビの日課 8月10日

 

わたしの寝室のデスクには、2つの小さな鉢植えがあります。

アイビーと、深大寺植物園の盆栽店で買った斑入白鳥花。

斑入白鳥花は盆栽とも言えないほどの若いものですが、

わたしのペットのようなモジャモジャコンビです。

moja

夏になってからは、朝まず水をやってテラスに出して

午前中のさわやか(?)な空気で日光浴をしてもらいます。

風に吹かれたり鳥の声を聞いたり。

午後半ばの強烈な日光が当たり出したら

すかさず室内に戻して日焼け対策&根の傷み防止です。

(出かける日は外には出しません。)

涼しい室内で落ち着いたら水をやって、

日が陰りはじめたらまた少し外気浴で深呼吸させて

寝る前に室内に戻しておやすみなさい。

優雅に過ごして頂いています。

たまに肥料をやったり、枝葉を摘んだり

ちやほやちやほや。いいこいいこ。

ほとんどわたしの自己満足ですから

モジャコンビのご希望に沿っているか謎なのが痛いところ・・・。

 

昨年の真夏に旅をして、クマヤナギを枯らせてしまった痛い教訓から

(花月はすっかり大きくなって、庭にうつしました。)

このモジャコンビには元気で過ごしてもらいたいのです。

秋になって日光が落ち着いて、外で過ごせる時間が長くなるまで

あとしばらくです。

 

良いこともひとつ。 8月06日

 

言いたかありませんけどね、言わずにおれませんよ。

「あ、暑い・・・!」

やけっぱちな気分になってしまいます。

 

今年は朝顔で天然カーテン作りを目指していますが

葉は日焼けして茶色く枯れ始めてしまいました。

カーテンのカーテンが必要??

先日の良く晴れた日のお昼、庭の温度計をみたら

日向は44度を表示していました。

我が家は都心ではありませんが、高温で名が出る場所でもありません。

都内のはずれでこの気温です。

44 (2)

いやはや、まいったなぁ・・・

暑さに文句ばかりだけど、暑くて良いことは何かないかな?

と考えてみたところ、ひとつありました。

ずばり「石膏やニカワの湯煎が必要ない」のです。

 

わたしの作業部屋は庭の一角にありますので

冷房をつけずにお昼近くになると、かなり暑くなっています。

前日の夜に作り置きの石膏やニカワを冷蔵庫から出しておけば

翌日お昼頃にはすっかり液状に戻って、作業に程よい温度に。

(もちろん防腐剤が入れてあります。)

もひとつおまけに、石膏の乾きが早くて楽!

44 (1)

ただでさえ暑い作業部屋、火を使う湯煎作業が省略できて

そしてひと手間省けて助かります。

 

この暑さも9月半ば、お彼岸までの辛抱です。

 

イメージのはじまり 8月03日

 

古い物が好きで、骨董市やアンティークショップに立ち寄ります。

そんな時に目に留まって、頭の片隅にイメージとして残っているものは

食器、家具、古い布製品や絵葉書などいろいろ。

配色や手触りの記憶が少しずつ溜まっています。

それら記憶がなにかの拍子にふと蘇って、額縁のデザインに繋がります。

 

フランスの使いこまれた大皿は、多角形で装飾はほとんどありません。

灰色の土に白い釉薬がかけてあって白の下に灰色が透けていました。

長い間使われて、茶色のシミや傷が沢山残されているのが印象的でした。

この額縁はそのお皿の記憶から。

イメージ元のお皿よりも装飾は沢山ですけれど。

piatto2

* 「works」内「classical」にこちらの額縁をアップいたしました。

どうぞご覧下さい。