diario
留め切れの美醜 6月18日
古典技法の額縁制作では、木地にニカワで溶いた石膏を塗り磨き
その上に箔をはったり色を塗ったりと装飾を加えます。
この石膏地というのが曲者(?)です。
水押しで箔を貼り磨くには最適の硬度であり、また
垂らし描きで作る盛り上げ装飾もこの石膏ならではです。
でも湿度や温度によって、そして木地の収縮によって
四隅の接合部分にひび割れが入ることがあります。
これは「留め切れ」と呼ばれる現象です。
木地の切断や接着に工夫をしていますが
留め切れが出来てしまうのは古典技法の宿命のようなもの。
額縁の強度や構造には全く問題ありません。
ご注文をいただく前、打ち合わせ時にお客様にはご説明し
ご理解いただけるようにしています。
確かに、せっかく注文して作った新しいピカピカの額縁にひび割れがあるのは
嫌に思われるお客様もいらっしゃいますし、当然です。
ですがこの留め切れ、アンティーク仕上げにするには歓迎される場合もあります。
割れ目にワックスや「ニセモノほこり」の汚しが馴染み
意図して作ったヒビで無いだけにとても自然に古い雰囲気を出します。
イタリア留学時代、お世話になっていた額縁師匠マッシモ氏に
「角が割れてしまったけれど、直したほうが良いか」と訊ねたら
「なぜ直す必要がある?自然な割れがある方がさらに綺麗だろう?」と
言われたことがありました。
留め切れが出来てしまうなら、それを生かす方向も。
美意識はさまざまです。
* 「works」内「classical」にこちらの額縁をアップいたしました。
どうぞご覧下さい。