diario
額縁と作品が接するところには 8月22日
いま古い額縁の修復をしています。
表側はベージュと金の装飾で凝っていて かなり華やか。
制作年代ははっきりしませんが
販売当時かなり高額だったと推測します。
ですが今は亀裂や欠け 浮き上がりがあるので
とにかく剥落止めをしてこれ以上壊れないようにして
そして洗浄して充填・・・と作業をすすめます。
さてこの額縁に納められていた作品は
キャンバスに油彩で薄塗りに描かれた風景画なのですが
作品の縁近くを見てみましょう。
写真中央上 キャンバスの縁に白い部分がありますね。
そしてその下 前景の草が描かれたあたりにも
白い部分が連なって見えています。
これは絵具がこすれて剥がれてしまった いわば傷痕です。
拡大写真を見てみると
絵具 そして絵具層の下塗りに当たる白い地塗りも剥がれ
キャンバスの布目まで見えるほど擦り切れ えぐれてしまっています。
この症状を「額擦れ」と呼びますが
その原因は 名前のとおり残念ながら額縁にありました。
この作品の額縁にはガラスが入っていませんでした。
つまり額縁とこのキャンバスは直に接していたのですが
その接していた部分 額縁の「かかり」と呼ばれる部分が
平らに整えられておらず 凸になった部分に長い時間こすれて
キャンバスに穴が開く寸前までに至る大きな傷を作っていました。
上の写真はその額縁を裏側から見た状態です。
額縁の内側の縁に モジャモジャと白い線が見えますね。
これを拡大してみると
額縁の内側の縁(かかり)の白いクリームが垂れているような部分は
木地に塗った石膏(あるいは胡粉等)下地が垂れたもので
いわばバリのような余計な部分です。
この垂れた凸部分が長い時間をかけて 作品に傷を作っていました。
これは本来 額縁を制作する段階で磨いて取り除くべきものです。
なぜこんなに立派な本額縁の「かかり」が整えられていないのか
職人さんが忘れただけなのか・・・不思議ではあります。
とにかく! 何はともあれ!!
中に納める作品に傷をつけてしまう額縁など本末転倒です。
今回は特に珍しい例 そして重症な例ではありますが
古い額縁に長い間納められているキャンバス作品に
「額擦れ」は決して珍しい症状ではありません。
そして「額擦れ」は中々防ぐのが難しいのが現実ではありますが・・・
大切な古い作品をお持ちの方は
額縁と作品が接する部分を気を付けて観察してみてください。
そして残念ながら目立つような擦り傷があったら
可能ならプロの絵画修復師に処置をご相談ください。
作品の修復とともに額縁の改良も行って頂きたいと思います。
具体的には 額縁と作品の間にクッション材を挟む等
様々な改良方法があります。
そして安心してまた額縁と作品が寄り添って過ごせるように。