diario
M&P 9月03日
フィレンツェには額縁工房が想像を超える数存在します。
また額縁制作にともなう木工所や彫刻工房なども含めると
大きくない町なのに額縁に関りのある職人さんは驚くべき数です。
それだけ需要があるということなのですね。
そのような環境の中でも 東洋の女性留学生を
受け入れてくれる額縁工房がいくつあるかといえば
残念ながらそう多くはないのが現実でした。
第一に家族や個人単位の極少数で経営する工房が多いこと
そして当然ながら学生を受け入れれば
余計な仕事も負担も増えると考えるのが当然です。
わたしを受け入れてくれたマッシモ氏の工房も
マッシモ氏とパオラ夫人の二人で作業を進める小さな工房です。
今思えば ある日突然「額縁制作の勉強をしたいから
手伝わせて欲しい」などと図々しく押し掛けて行ったわたしを
よくぞ受け入れてくださったことと改めて感謝の気持ちで一杯です。
わたしが通っていた専門学校では2年生になった時から
工房で実地の修行をすることを奨励していました。
もちろん無給ですが商売の現場に乗り込むわけです。
とは言え学校が工房を紹介するわけでもなく 学生自身が
目指す工房を直接訪ねて(それこそ自己責任で)許可をもらいます。
マッシモ氏の工房はサンタ・クローチェ教会近くの住宅街の角に
小ぢんまりとした店構えで佇み ショーウィンドウには
アンティーク加工した色とりどりの額縁大小が並び
そして店のカウンターにはヒゲ面ギョロ目(本当なのです・・・)の
マッシモ氏が仏頂面で接客しているのでした。
ドアを開けるときの緊張を今も思い出します。
その日から留学を終えて帰国するまでの2年以上の日々
毎日半日をマッシモ氏の工房で過し 額縁に接し
学校では学べないことを教えて頂だくという
今のわたしを形作る何物にも変え難い時間を過すことが出来ました。
工房外でもまるで両親のように心配し イタリアで暮らす上での
諸々のことを教えてくださいました。
帰国する挨拶に工房に伺うと マッシモ氏が工房の奥から
ひとつの額縁を持ってきて贈って下さいました。
それがこの額縁なのですが・・・
工房にお世話になり始めたばかりの頃 まだ覚束ないわたしに
この額縁の彩色装飾の仕事が与えられました。
完成はさせたものの 堅い線から自信の無さがにじむ結果に。
結局お蔵入りになってしまった苦い思い出の額縁でした。
挨拶のその日 マッシモ氏がアンティーク加工をして仕上げ
裏にご夫婦でメッセージを入れて記念に持たせてくださったのです。
口数の少ないマッシモ氏の「初心忘れるべからず」とのメッセージのような
思い出が沢山つまった額縁です。